|
|
移動図書館場バス(上)、農村文庫の活動(下) |
「いつでも、どこでも、だれにでも」をモットーに全国に誇る図書館活動を展開してきた高知市立市民図書館(筒井秀一館長、以下市民図書館)のネットワークの重要な一翼を担う移動図書館が6月から民間委託されることになり入札の結果、県外大手の「大新東株式会社」(※)が落札しました。図書館まで遠く利用が難しい市民に本を届けるために1950年に始まった伝統ある移動図書館が大きな転機を迎えています。
市民図書館は「市民の図書館」として米軍占領下の1949年、同市議会付属図書館から発展する形で地方都市の図書館としては全国的にいち早く開設され、翌50年には移動図書館の前身である自動車文庫が作られました。「本館から一番遠い市民に本を届けるために作った」(移動図書館開設に職員として関わった経験を持つ元同館長の渡辺進さん)。
自動車文庫は本を載せたバスに県の農業改良普及員を同乗させ農村を巡回する「農村文庫」など画期的な活動を展開し、以来60年以上にわたって図書館まで来ることができない子ども、女性、高齢者などに本を届け、読書活動を支えてきました。
今日、移動図書館は@本館、A分館・分室、B移動図書館という図書館ネットワーク三本柱の重要な構成部分で、2台のバスで巡回しながら172カ所のステーション・配本所に本を届け、年間約16万冊の貸し出し実績があります。
■図書館活動の原点
移動図書館の外部委託は、図書館現場から出たものではなく、市上層部からの定員削減の圧力に抗しきれず、「図書館本体の直営を守るため、やむなく応じた」(同市民図書館関係者)というのが実際です。利用者登録やカードの発行管理、49000冊の蔵書が本館、分館・分室とは独立したシステムになっていたために、委託が技術的に容易だったという側面もありました。図書館ネットワークの重要な柱がアウトソーシングされることで、図書館活動全体の水準の低下が懸念されます。
渡辺元館長は「移動図書館は図書館まで来ることができない市民に本を届けるという図書館活動の原点。これを外部委託することは、単に業務の一部を委託するにとどまらない問題があり残念だ。安ければよいという流れをくい止めることができていない状況を、よく考えていかなければならない」と話しています。
6月から委託業務がスタートしますが、県外大手企業が落札したことに市議会や市民からの批判が高まることが予想され、また公的サービスの委託で毎回大きな議論となる「偽装請負」問題についても、図書館側の検討は不十分なもので新たな問題点が露呈することも考えられます。
筒井館長のコメント バス運行、貸し出し業務は委託するが、司書資格を持った者を乗車させ、図書館の命である選書の直営は堅持する。市民サービスは低下させない。
※本社東京。企業や官公庁・自治体が保有する自家用自動車の運行管理を一括して請け負う自家用自動車管理事業を得意とする。企業向け、自治体向けを問わず、幅広い業務に対応するトータルアウトソーシングビジネスを展開している。(2010年5月16日 高知民報) |