2010年4月11日

コラムアンテナ 「浮浪者」排除で活性化?

今でもベンチには横になれないような細工がしてある(高知市中央公園)
「浮浪者」−−。この言葉を近頃は耳にすることはなかったが先日、県と高知市がかかわる公的な会議の場で耳にする機会があり驚いた。

貧困が重大な社会問題になっている今日、行政が「ホームレス」のことを指して表現する機会は多いが、たとえば「住居を失った生活困窮者」など、一定の配慮した言い方をするのが通常である。

これは単に言葉の問題ではない。住居を失った人々を白眼視するのでなく、彼らの人権を保障するために社会全体で支えていく思想の有無の表れであり、行政が「浮浪者」などという言葉を平然と使い、さらにそれが誰からも指摘されない状況に二度仰天した。

この会というのは近頃、何かと話題になる「はりまや橋から高知城までの東西軸エリア活性化に係るプラン検討会」。

中心商店街の活性化にむけた施策の一つとして「中央公園の北東、西部分が、浮浪者がたむろして一般の家族連れが利用できない状態を改善してにぎわいを作る事業の予算を50万円計上した」との提案があった。まるで「浮浪者」は野良犬というような言い草だった。

この事業を担当するのは高知市みどり課とされていたので、具体的に何をするのか担当者に聞いてみた。当初はあずま屋を撤去することはできないかという話もあったという。屋根があるので「浮浪者」が集まってくるということなのだろうが、さすがに課内の議論で「住居を失った人たちの住まいを確保することが大切。ただ追い出せばいいのか」という意見もあり、茂った樹木をせん定するにとどめると聞き、少しほっとした。

そもそも、この検討会の意図が見えない。西武跡地へパチンコ店が出店することの無策を非難された知事が、アリバイ的に急いで立ち上げたのが実態で、県・高知市に確たる軸がないために、地元紙に「総花的」、「現場の声を聞かずに役人だけで決めている」と批判されたとたん狼狽して方向喪失。一転何も決められないような状態に陥っているように見える。

検討会で交わされた議論では「日曜市の出店のハードルを下げ、エリアを広げることで賑わいをつくる」(若手経営者)など、なるほどという意見もあるが、「追手筋の街路樹が高知城を見るのに邪魔、歴史的に無価値なので全部伐採してしまえ」などという噴飯ものの提案を大真面目にする学識経験者もおり、玉石混交というのが率直なところ。

中心街に賑わいを取り戻すことは、県・高知市にとって極めて重要なテーマであることは違いないが、弱者を異端視して排除するようなまなざしでは決して成功しないということを関係者は肝に銘じてほしい。(N)(2010年4月11日 高知民報)