2010年1月10日

民主党「地域主権」に危うさ 地方自治の視点こそ必要 霜田博史・高知自治体問題研究所理事長に聞く

霜田博史・高知自問研理事長
民主党が掲げている「地域主権」や道州制、地方分権論について霜田博史・高知大学准教授(高知自治体問題研究所理事長)に聞きました。


―民主党は昨年の総選挙で「地域主権」と言い、「地方分権」とは言っていない。「道州制をやる」とも単純には言わなかった。

霜田 民主党の「地域主権」と道州制の関係がいまひとつ見えない。民主党は、もともと道州制をやると主張していたが、総選挙では引っ込めて「地域主権」という言い方に変えた。一方で自民党ははっきりと「道州制をめざす」と言っていた。民主党の「地域主権」と、小沢一郎幹事長が言ってきた全国の市町村を300自治体に再編して国との二層制にするということとの関係もどうなるのかよく分からない。

―新政権の評価は?

霜田 民主党政権のめざす方向は、一時は自民党とは違う福祉国家路線なのかなと思ったが、「事業仕分け」のあり方などを見ていると、政権を担当する人が変っただけのようにも思える。

まだあやふやで、期待できるところがあるのかもしれないが、地方交付税を「事業仕分け」の対象にした時点で、今までの自民党のイメージとあまり変らない印象がある。まだ印象であり、よく分からないところも多いのだが、地方交付税を減らして、補助金を一括交付金化していくならば、それは小泉政権の「三位一体改革」の延長線上でしかない。「三位一体改革」が引き継がれてしまっては、「自主財源」の乏しい高知県のような地方はきびしい。民主党政権に高知県のような地方への配慮は今のところ感じない。

このようなことを考えていくと、自民党の言っている「地方分権」と、民主党の「地域主権」に、それほどの違いはないのではないかというのが率直な印象だ。

―道州制をどう考えるのか。

霜田
 今の道州制の議論の特長は、都道府県制がどうして悪いのかという話が何もないこと。単に「範囲が狭いから」という以上のものではなく、あとは公務員を減らすというだけ。それだけなら制度を変える必要もない。

政府の「道州制ビジョン懇談会」座長をしていたPHP総合研究所社長(当時)の江口克彦氏が、地方財政学会で行なった講演を聞いたことがあるが、要するに「地方が不景気なのは中央集権が悪い。だから道州制にしたらすべて解決する」と言っていた。ぜんぜん中身がない。

会場で「都道府県制が何で悪いのか」という質問が出たが、江口氏の答えは「政府もたくさんパンフレットを出しているし、僕もたくさん本を書いている。専門家のみなさんは、もっと勉強して質問してください。道州制の必要性は国民、自民党、民主党も理解している。もっと世の中に目をむけてください」。唖然とした。PHP総合研究所の母体であるパナソニックは関西財界の代表なので、突出して道州制を主張している。

民主党は道州制に反対していないし、推進する人もたくさんいる。党内で意見が割れるとは思えない。警戒が必要だ。

―そもそも、「地方分権」とは何なのか。

霜田 中央集権が悪いことのように言われるが、果たしてそうなのか。何をもって中央集権というのか。集権、分権の基準もあいまいだ。今までよりも権限が地方に移ったら分権で、国のほうに向かったら集権ということにはなるだろうが、その基準はどこにあるのか。歴史的な要素も大きい。集権的にやることすべていけないのかというと、そんなことはないだろうと思う。国全体で保障しなければならないことは当然ある。

心配なのは地方分権したら何でもOKみたいな雰囲気がいまだにあること。金がある地域ならばそうなのかもしれないが、金のないところが諸手を挙げて賛成できるのかといわれると難しい。

分権か集権かというのはあくまで相対的な基準であり、その結果として何をするのかが大事。農業分野や、まちづくりなどで「規制だらけ、補助金漬けで大変」という現実を知っている人tたちが、「地方分権をしなければいけない」と言うのは分からないでもないが、「地方分権」で解決しないこともある。

本来の地方分権には地方自治という意味もあるはずで、地方自治からみた地方分権をどう考えるかという視点が必要だ。「今までは国が支えてきたから、これからは地方が自主性をもってやれる時代になっていこう」というストーリーは分かりやすいし、マスコミにも受けやすかったが、何でもかんでも「地方分権」にすればよいということにはならない。最低限の生活保障がされたうえで、地域のことは地域で考えるという方向性が大事になってくるのではないか。

しもだ・ひろふみ 1977年生まれ、32歳。群馬県出身。立命館大学経済学部卒、京都大学大学院修了。ドイツの地方財政研究が専門で、2006年から高知大学で地方財政論の教鞭をとり、過疎問題などにも取組む。高知自治体問題研究所理事長。(2010年1月10日 高知民報)