2010年1月10日

コラムアンテナ 「正確さ欠く西武跡地の議論」

西武跡地の図面 今回売買されたのはAの部分だけ
空き地になっている「西武デパート」の跡地(高知市南はりまや町)をファッションビルとして再開発することを計画していたオーナーズ・ブレーン社が計画を断念し、アーク不動産(本社大阪)に転売したため、この土地がパチンコ店になるのではないかという懸念が高まっている問題で、「市民団体」が県に土地を買収するよう求める署名活動の「舞台裏」を明かす連載が昨年末に地元紙に掲載された。

「市民団体」の代表が土佐電鉄社長であり、この他に民主党県連役員で自治労出身の川添義明・元県議、松尾徹人・元高知市長、土電役員を務める西岡寅八郎・自民党県議らが噛んでいるという舞台裏が明かされた。

高知県観光の目玉である「はりまや橋」の目の前が、ギャンブル施設では寂しいという多くの県民の素朴な感情は理解できるが、この土地をめぐっては、「市民団体」の顔ぶれを見て明らかなように、様々な利害関係や思惑が渦巻いている。

あの土地はもともと土電のバスターミナルがあったところであり、土電が土地を手放したことが今日の事態を招いているわけで、手放したその当事者が「税金で買え」と県に詰め寄る構図はいかにも奇妙であるし、そもそも、この議論の前提となる土地の情報が正確に報じられていないのはなぜだろうか。

今回、転売された土地は、A(図参照)の部分であり、はりまや橋交差点に面した核心部の@は個人所有のままである。つまりAを県が取得したとしても、@を欠いたままでは利用には値しないことから、一体的に土地を利用するために@を賃借し続けなければならないことになる。@の個人所有者は賃貸には応じるものの、売却する意思はない。

このような重要な情報が県民的にほとんど明らかにされていないなかでは議論も正確さを欠くのではないか。尾崎正直知事は「高知の顔にふさわしい開発をしてもらえるよう土地所有者に働きかけていく」と年末の記者会見で述べたが、県民的な世論で土地所有者の「手を縛る」ことが重要だ。行政や利害関係者だけではない、幅広い県民が参加した議論が必要となっているのではないだろうか。(N)(2010年1月10日高知民報)