香美市土佐山田町東川地区にあるJR四国・土讃線の新改駅は全国的にも珍しい現役のスイッチバック方式の「秘境駅」として鉄道ファンに知られています。
新改駅のホームは土讃線本線から分岐した支線に設置され、高知方面に向かう下り各駅停車の列車は、本線から引込み線に入って後進で新改駅に侵入し停車。発車時は前進で本線に合流して土佐山田駅に向かいます。
高松方面に向かう上り列車は、本線から新改駅に入り停車。発車時には後進で引込み線に入り、再び前進して本線に合流して繁藤駅へ。
後進時、車掌が乗車している場合は車掌が先頭で安全確認をしながら進みますが、ワンマン運転では運転席を替えるために運転士が車内を移動し行ったり来たり。「南風」などの特急列車は、猛スピードで通りぬけ乗客が新改駅に気付くことはありませんが、各駅停車の列車なら、ゆったりとしたホームへの出入りを味わうことができます。
■秘密は勾配に
一見、面倒に思えるスイッチバックの駅は,
なぜ作られたのでしょうか。秘密は勾配にありました。新改駅は土佐山田駅と繁藤駅の間に位置していますが、標高は土佐山田駅約40メートル、新改駅205メートル、繁藤駅340メートル。
土佐山田駅から繁藤駅間は、直線で8キロメートルしかないにもかかわらず、標高差が300メートルもある土讃線屈指の難所。急勾配を緩和させるために蛇行したトンネルで距離をかせいでいますが、四国の鉄路で最も険しい勾配になっています。急勾配の本線とは異なりホームと引込み線は水平に。理由は蒸気機関車時代、傾斜途中で停車すると再発進が困難になるためです。
元国鉄機関士で1960年代に機関助手として蒸気機関車で新改駅に入った体験がある森岡光徳さん(67歳)の話 1000分の25というきつい勾配が続くため、SLでは一気に上りきることができず、休むために作られた駅。当時は乗降客も多かった。この駅でSLの水を補給したことを覚えている。
写真上・美しい曲線を描くスイッチバック切り換え部、中・ホームの奥は行き止まりに、下・ホームに進入するキハ32 (2010年1月1日 高知民報) |