2010年11月20日から22日まで高知県内で開催が予定されている文部科学省と高知県が共催する「全国生涯学習フォーラム高知大会」。このイベントを担当する県教育委員会は、これを契機に「教育の日」を定め「生涯にわたり学び続ける教育的風土づくり」をすすめると9月に策定した県教育振興基本計画に位置づけ、事務局内に専従するスタッフを構えてかなりの力の入れ様。
同大会は各県持ち回りのイベントで(高知大会から縮小し「全国生涯学習フェスティバル」から名称変更された)、現在明らかにされている内容をみると@かるぽーとでのオープニングセレモニー、Aじばさんセンターでの生涯学習関連団体の情報発信コーナーと地元食材を使った料理の販売、B県民体育館での市町村・高知県高校総合文化祭とのコラボレーション、C4つのテーマのシンポジウム、D市町村主催事業・・・。
主題の生涯学習との関連のピントの定まらない通り一遍の緩いイベントというのが正直な印象。そもそも3日間の一過性のイベントに多くの期待ができるはずもない。
その「全国生涯学習フォーラム」だが、県教委が提起したスローガンが思わぬ波紋を広げている。そのスローガンとは「今こそ龍馬DNAを呼びさませ」。
説明には「龍馬DNAを受け継ぎ高知県の次代を担う青少年に対して、国際人の育成や夢や希望を実現する将来像等に関する公開講座やシンポジウムの開催、また龍馬ゆかりのコンクールやイベント、体験活動など多様な事業を土佐・龍馬であい博と連携を図り展開」とある。生涯教育とは「生涯を通じて教育の機会を保障する成人教育」のことだと思っていたのだが、県教委の言うそれは、観光とのタイアップを目的にするなど一般的な「生涯教育」とはかなり異なっている。
10月7日の県議会総務委員会では、自民党の結城健輔議員が「何でもかんでも龍馬、龍馬と軽々しく使ってもらっては困る。価値が下がる」と、このスローガンを批判した。維新の立役者である歴史上の大人物を一般庶民と同列に語るのはおこがましいというのがその主張の趣旨だった。一方、「日本共産党と緑心会」の塚地佐智議員は「結城議員とはまったく別の視点だが」と前置きして「高知県民に坂本龍馬のDNAがあるような非科学的なスローガンが、文部科学省や県教委が取組む教育的な行事にふさわしいのか」と指摘した。結城議員の時代錯誤な発言はさておき、確かに坂本龍馬のDNAが高知県民に流れているという言い方は初めて聞いた。せいぜい「龍馬スピリットを受け継ぎ」くらいではなかったか。
DNAとはデオキシリボ核酸のことで、細胞内の染色体の重要な部分を占め、遺伝子本体として遺伝情報の保存、複製に関与する物質。どうして高知県民が龍馬の遺伝子を受け継ぐ子孫であるかのような話になってしまうのだろうか。
総務委では県教委側の主張は聞かれず、真意はよく分からないが、おそらく国際的に広い視野を持った坂本龍馬のような精神を受け継ごうという趣旨を強調するあまり、話が飛躍してしまったのだろうと想像する。
龍馬が子ども時代に「低学力」で、塾の先生にも愛想をつかされたという逸話はよく知られている。チマチマした「学力」などにとらわれず、壮大なスケールで独創的な思考をしたことが龍馬の真骨頂だろう。県教委も「龍馬、龍馬」と言うわりには、肝心のところを理解しているようには思えない。「全国学テ」の点数や順位に一喜一憂するのは、最も「龍馬的」ではないように思える。(N)(2009年11月1日 高知民報) |