2009年10月4日

「制裁より対話の戦略持て」「憎悪のぶつかり合いでは進歩ない」 蓮池透・前「北朝鮮による拉致被害者家族会」副代表が講演 

講演する蓮池透氏(9月26日)
北朝鮮に拉致されていた蓮池薫さんの兄で被害者の救出活動に取組んできた蓮池透・前「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」副代表が9月26日、高知市の県立人権啓発センターで講演。日本政府の経済制裁一本槍の硬直したこれまでの対応を批判し、被害者救出のために知恵を絞れと訴えました。講演会の主催は「サロン金曜日」(松尾美絵代表)。

会場一杯の280人が参加した講演会では蓮池氏が90分間にわたり講演し、2002年に帰国した弟・薫さんの様子や、小泉純一郎元首相が訪朝した「平壌宣言」時のエピソードなどを紹介しながら、「感情的に北朝鮮を叩いても被害者が戻ることにはつながらない。北朝鮮の立場に立った視点で戦略を考えるべき」、「拉致を核問題とセットにする包括的解決ではなく、日朝間の問題として独自に取り組むことが大事」と強調しました。

蓮池氏の講演要旨 拉致問題が明らかになって7年だが、解決しないのは何故なのか。検証してほしい。北朝鮮打倒を言ってきた自民党政権が倒れた。政権交代を機に舵を切ってほしいというのが偽らざる気持ち。

「お前の家は解決しているから言うことに説得力がない。黙っていろ。余計なこと言うな」と言われるが、いまだに戻ってこない人のことが頭にあって、7年たっても人目を気にしてのびのびとした生活ができない。

すべて税金で生活しているという噂、子どもの大学は入試免除・学費免除でいいねと言われる。外食や旅行もいけない。弟はこんな支援はいらないと言っている。

どうしたら心から喜びをあらわにできるのか。まだ帰ってきていない人に帰ってきてもらって喜ぶしかない。「うちは良かった」と黙っていれば楽だが、帰ってきた者にも苦しみがある。この問題を早く解決するために発言している。

家族会には「足を引っ張る」と言われている。確かに彼らの運動の足を引っ張っているかもしれないが、被害者救出の足を引っ張っているわけではない。

北朝鮮のことで自由に話をする土壌が今はない。強硬なことを言わないで、少しでも柔軟性、多様性のあることを言うと親北、国賊と言われる。

来年の3月で支援法が切れる。5年間で自立しろという法律。家族4人で月額30万円くらいもらっているが、収入があるとその分支給が減らされる。弟は本を書いて売れたのでたぶんストップされるだろう。弟は「支援は延長しなくてもよい。自立して北朝鮮と日本を見返してやる」と言っていた。

自民党政権が7年間やってきたのは経済制裁。平和的な方法と戦争の中間。日本は戦争はしないのだから、最後のカードだ。これをやったら相手がどう動くかをよく考えて戦略的にやるべきだと私は言ってきた。

政府は制裁すれば北朝鮮が折れてくるというが、被害者が帰ってきたのか。北朝鮮が日本への反発を強めているだけという気がしてならない。果たしてこれでいいのか。相手を困らせるのが目的ではない、相手の態度を変えさせるのが目的だ。とにかく懲らしめろになっている。北朝鮮に関するテレビ報道はほとんどエンタテインメント。まったく本質を考えてない。変な国、何をやるか分からない国とやって数字をとる。報道ではない。

核とミサイルと拉致を「包括的に解決する」というのが決まり文句になっている。核やミサイルは世界の脅威だが、拉致はあくまで日朝間の問題。都合の良い逃げ口上で無責任だ。核問題とは分けて戦略を練ってほしい。核が解決したら被害者が帰ってくるのか。拉致は拉致できちんとやらなければいけない。

北朝鮮にすれば約束を反故にされ裏切られたという思いで一杯で、もう日本は相手にしないとなり膠着状態が続いている。北の立場の視点を日本政府には分析してほしかった。今度の政権には期待したい。北が何故怒っているのかをよく考えてほしい。「北朝鮮はけしからん」と打倒が目的になってはいけない。被害者救出とはかけ離れている。憎悪のぶつかり合いでは何の進歩もない。

北朝鮮は「過去に日本は何十万人も拉致したじゃないか、10人や20人に何の問題があるんだ」と正当化する。それは詭弁だが、日本政府が過去の清算を先延ばしにしてこなかったか。迅速に正確に清算が行なわれていたなら、拉致は起こらなかった可能性がある。

過去の清算のことを言うと、国賊とか親北といわれるが、右翼でも左翼でもなく、鳩山首相が国連で演説したことをやるべきと言っているだけ。「平壌宣言」にも書いてある。イデオロギーではない。過去の清算を何をどう補償するのか具体化して、彼らに「これだけのことをやる用意がある。あなたがたも同時行動しないさい」と提示するしかないのではないか。過去の清算について、国民の了解を得たうえで、踏み込んでいなかなければならない。

家族を恐れ、皇室のように聖域化して言いなりになるのではなく、新政権には解決につながる確信があるなら家族が反対してもあえて実行するくらいの気概がほしい。(2009年10月4日 高知民報)