2009年8月9日

コラム アンテナ「山元の思いは届いたか?」

7月31日、高知会館
7月31日、高知市内で開かれた尾崎正直・県知事と町村長との意見交換会。与党議員の歯の浮くような世辞が並ぶ県議会とは様相が異なり、深刻な過疎地の住民に直接責任を負う町村長たちからは知事に対して辛らつな意見が相次いだ。

最も顕著だったのが林業振興策について。知事は林業振興に求められる施策として、@山元(やまもと)の一層の効率化とコストダウン、A県産材の大都市圏での販路拡大を強調し、町村長側が求める公費を投入して木材価格を支える価格保障的な政策に対し「需要が低迷している時に、より木を出しやすくする政策をとると供給過剰となって値崩れする恐れがある」などと言い難色を示した。

これに噛み付いたのが岩崎憲郎・大豊町長。「知事とは認識が違う」と切り出し、「コスト削減には何十年も取り組んできたがもう限界。国際的な競争に勝つための価格が、日本の山で林業をする人にとって下げられる範囲の価格なのか。林業を仕事として成り立つ産業にするには、それなりの価格に水準を引き上げ維持しなければならない。我々には林業しかない。生きていける林業のために直接的な投資をすべきだ。そうしない限り林業は成り立たない」とコストカットではなく、価格保障的な政策の実現を強く求めた。

尾崎知事は「県の価格保障が財政的にもつのか。一種の社会保障であり、県だけでは体力がない。かつてのコメのように国家レベルの課題としてやるかどうかを考えなければならないかもしれないが、やはり需要拡大が柱になるのではないか」とかわしたが、これを上治堂司・馬路村長が「山元は努力を十分してきている。県として本腰を入れて森に取り組む姿勢が見えてこない。実行型と知事が言うのだったら、もっと真剣に取り組んでほしい」と痛烈に批判した。

これには尾崎知事の顔色がさっと変わり、「私ほど真剣に取り組んでいる人間はいない。特効薬がないから苦しんでいる。何をやればいいのか。補助金を入れていつまで持つのか。真剣にやっている。価格支持政策が上手くいくのか。コメと同じだ。輸入が現実問題として止められるか。止められないから苦労がある」と感情的に心境を吐露する一幕があった。

「これ以上のコスト削減を求められても限界を超えている。価格保障しかない」という山元(やまもと)の声も、尾崎知事の「県だけで価格保障をやっても維持できない」という思いも、どちらも正しい。今の国の枠組みの中だけでいくら考えても「解」は見つからないが、大豊町長や馬路村長の「叫び」を、国政が真正面から受け止めて根本から変わらない限り、山村の未来はない。(N)(2009年8月9日 高知民報)