2009年5月31日

コラム アンテナ 「狙いは自己啓発 高知教師塾」
「高知教師塾」 テンポの良い関西弁で講演する原田社長
高知市教委の「学力向上策」の目玉として5月23日から始まった「高知教師塾」。株式会社原田教育研究所の原田隆史社長を講師に、「自主参加」した30人の教員が講習を受ける。5月〜9月(1期)と10月〜2月(2期)が予定され、190万円の税金を投入して実施される。

「教師塾」について松原和広・市教育長は「高知の学力向上のためには、これまでのような教育技術論だけでは限界がある。自分を磨き、自分に自信を持って、教育に打ちこむキーパーソンを作る」。自己啓発で教員のモチベーションを引き上げるのが狙いだ。

開校式と講習の一部が公開されたので取材した。参加者は4〜5人の班に分かれ、講師の原田氏が関西弁でテンポよくトーク。めざす教師像は「教育への思いを持ち、結果成果を出す自立型教師」。具体像は@夢を描き、それを目標に変え、達成のための方法を考え最後までやりきる教師。A結果に被害者意識を持たない教師。B真面目・素直・本気・真剣・積極的・一生懸命で心のコップが上向きの教師。C仕事や目標に真剣に取り組み結果を出す教師・・・。

市教委が懸命に取り組んでいるところに水を差すようだが、気が付いたことを書いてみたい。

@原田「教師塾」の教委主催は全国初だが、話を持ち込んだのが原田氏に私淑するという安藤保彦・副市長で、それに教委が飛びついた感が強い。原田氏に一定の知名度があっても、教委の研修にふさわしいかどうかは、教委自身がよく吟味しなければならないが、教委からその思いが伝わってこない。

A拘束時間がやたらに長い。この日の講義は13時から21時(8時間)。これが5回連続、全日程参加が条件。閉鎖的な空間で長時間拘束する手法は「自己啓発セミナー」の典型だが、原田氏によれば東京や大阪の「教師塾」は未明までやっているという。

B「主体変容」。周囲のせいにする(被害者意識)のではなく、まず自分が変る。「自己啓発セミナー」の結論は例外なくこれ。教育行政や制度の改革、教育条件の整備を封じ込め、「変容できない」教員個人の「自己責任」に追い込んでいく危険をはらむ。

C参加者に考える暇を与えないテンポと、ことあるごとに「はい拍手!」。率先して大きな拍手をしていたのは原田氏が連れてきた女性スタッフだった。典型的なマインドコントロール的手法といえる。

また原田氏は司馬遼太郎『竜馬がゆく』を読み「坂本竜馬先生と吉田松陰先生を哲学の中心」として「教師塾」を始めたと繰り返していた。エンターテインメント小説を真に受けて師とするようではいかにも底が浅い。原田氏は「今回の教師塾は無報酬でやっている」と受講生に言っていたが、実際には1日19万円もの日当・交通費が支払われており、これにも首をかしげた。

取材が許されたのは一部だけで全容は分かりかねるが、「気付き」をこまめに付箋にメモして活用する手法、期日・目標を明確にした設定用紙、「心のコップは上向きに」、「恐怖や報酬など外圧によるヤル気は長続きしない」など、教員が実践的に学ぶべき点が少なくないのかもしれないが、関心のある教員が自費で参加するならともかく、公が主催する類の研修とは思えないというのが実感だ。

「自主参加」ということになってはいるが、実際には受講生集めに苦戦する校長に促され、しぶしぶ参加した教員もいる。教員をこれほど長時間、拘束するより、ゆっくり家庭で休養してもらい、教材研究をしてほしい。市教委は間違っても参加を押し付けることなどないようにしてもらいたい。(N)(2009年5月31日 高知民報)