2009年3月29日

コラム アンテナ「解同対応 県教委の微妙な変化」
部落解放同盟県連(野島達雄委員長)は3月17日、県庁内で県教委と交渉した。解同側の出席者は野島委員長、山戸庄治・県連書記長、森田益子・高知市協顧問など。県教委側は中沢県教育長、池康晴次長、中沢牧生・人権教育課長らが勢ぞろいした。

解同が推す知事が誕生し、中沢卓史氏が昨年4月に県教育長に就任して以来、初めての交渉であり、解同と毅然と対峙してきた前県政時代から、どのように変化しているのかに注目して取材に臨んだ。解同側の要請の中心点は@部落差別の現状認識、A「同和地区」児童生徒の学力実態調査の実施、B高校奨学金の改善で、以下のようなやりとりがあった。

@現状への認識

解同 これは中心問題だ。共通の認識、問題点を正確につかむことから出発すべきだ。

人権教育課長 繰り返される差別発言や落書き、結婚時における差別の発生などまだまだ厳しい状況があり、根強い差別意識の解消にまで至っていない。これまでの同和教育、人権教育の成果を大切に、同和問題をはじめとする様々な人権問題解決のためにさらなる取り組みが必要。

A「同和地区」児童生徒の実態調査

解同 課題がまだあるというのが共通認識だ。問題解決のためには実態を正確につかまなければ効果のある取り組みにならない。

県教育長 基本的にはそうだが、同和地区児童生徒に限っての調査はやっていない。

解同 「差別はある」といいながら把握しない。部落問題解決といっても調べようとしていない。見て見ぬふり。腰が引けている。

県教育長 子どもの実態を学校や現場の教員がつかんで課題に対応している。紆余曲折を経てここまできており、(「同和地区」児童生徒の調査を)やれと言われると、そうですとも、そうではないとも言えないが、現実には対応しているつもりなので、そこまで本当にしなければならないのかというのが正直な気持ちだ。

解同 これは永遠のテーマ。引くわけにはいかない。わけも分からないままやってくれという話ではない。

県教育長 わけもわからずにやってはいない。

B高校奨学金 

解同 入学一時金を奨学金に組み込み、保証人は1人に。

高等学校課長 見直しのための検証をすすめている。授業料免除と同時に決定の時期、貸与額や基準を改善できないか検討している。経済的理由で高校進学を断念することがないよう支援していく。

交渉の中で、森田益子氏が県教委の女性幹部に「国保保険証のない児童数を言ってみろ」と突如質問して、この幹部が言いよどんだところ、「それで教育ができるのか」、「女なら言えるはずだ」などと机をドンドン叩きながら高圧的な言葉を吐き、この幹部が謝罪させられる場面があった。突然質問して数字が出てこないからと難癖をつけるとは無茶苦茶だが、県教委側から制止する声も、この幹部をフォローするする言葉もなかった。

また中沢県教育長が、「同和地区児童生徒の調査」などという時代錯誤的な要請に対して、明確に拒否するのではなく、やんわりかわすような言い方をしたのも気になった。中沢氏は過去の同和行政がいかに県政を歪めてきたかについて肌身を持って実感しているはずだし、今更、解同的なものへと回帰するようなことがあるとは思えないが、知事が選挙で解同の推薦を受け、知事自らが解同高知市協の荊冠旗開き(1月10日)でカラオケまで披露するような蜜月ぶりが、現場に微妙な影を落としていることは軽視できない。

このところ森田氏が前面に出る場面が目立つ。おそらく次世代への運動の「継承」を意識していると思われるが、森田氏の口からでさえ「部落内外は関係ない」、「今は部落差別より障害者問題のほうが深刻」などという現状認識が聞かれるのは興味深い。県教委もいいかげん「部落差別はまだ根深い」という思い込みから抜け出す時でなないだろうか。(N) (2009年3月29日 高知民報)