2009年1月25日

コラム アンテナ「日高村産廃 場所が悪すぎた・・・」
日高村本村の建設現場。右斜面が崩壊した(09年1月19日)
高知県・高知市や民間団体などで構成する財団法人「エコサイクル高知」が高岡郡日高村本村に建設中の産業廃棄物処理施設・エコサイクルセンターの工事現場で斜面に亀裂が入り、地滑りの危険が高まったため、斜面に杭(アンカー)を大量に打ち込んで地盤のズレをくい止める工事を急きょ実施することになった。処分場の運転開始は1年半遅れの2011年9月以降になるという。

追加工事費用1億7000万円については、入札でコストを圧縮した「余り」で吸収し、総予算44億円をオーバーすることはないとしているが、何で寄りによって、そんな危なっかしい場所に、高い安全性が求められる処分場を建設するのかという疑問を県民が持つのは当然だろう。

日高村への産廃建設は前々県政から引き継がれ、前県政を揺るがせてきた最も困難な県政課題、「鬼門」だった。1993年時点で候補地になった柱谷地区では、村民と地権者の反対運動がおこり、自治体へのアメである「振興策」を目当てに受け入れを主張する村民とに村が二分され、村長リコール、議会解散など村政は翻弄され続けた。

2000年頃から廃棄物を取り巻く状況の変化と地権者の強固な反対を背景に、県の方針に変化が見られ、柱谷の計画は縮小を余儀なくされる。02年には急転直下、柱谷への建設を断念。製鉄用添加材として蛇紋岩を採掘していた東邦オリビン工業の採石場跡へと予定地が変更された経緯がある。

結局は柱谷への建設に行き詰った県が、苦し紛れに飛びついた「政治的判断」というのが実際だ。現地に行けばすぐに分かるが、建設予定地は相当な急斜面で、直下に仁淀川。また蛇紋岩は空気に触れると崩れやすいこともよく知られている。通常考えれば適地とは到底思えない場所だ。

03年の6月県議会では、谷本敏明議員(日本共産党と緑心会))は「今回の予定地が高知市民の飲料水の取水口の上流地域であること、さらに地質的に問題があるとされる蛇紋岩地帯である点等を踏まえて、適地ではないと考える」と指摘していた。

しかし03年10月26日に産廃の是非を問い実施された同村の住民投票では、産廃反対派が地質の悪さを強く訴えたものの、県は説明会などで「予定地周辺は非常に固い岩盤で囲まれ、十分な強度がある」と繰り返したことから、賛成2466票、反対1621票で決着した。その後の議論の中心は、施設の採算問題となり、場所の問題が再びクローズアップされることはなかった。

しかし、工事が始まってすぐの昨年3月には進入路山側の崩壊、4月には今回問題になった廃棄物を貯めるプール上部の斜面崩壊が明らかになるなど、出だしからつまずく。住民からは「蛇紋岩を掘れば崩れるのは当たり前。やめたらまし」、「場所が悪すぎる」(高知市幹部)という声も出ている。

地質の悪さの指摘を無視し、拙速に飛びついた前県政の責任が重大であることは言うまでもないが、ことはそれだけでは済まない。今回のアンカー工事で当面の地滑りは回避できるかもしれないが、この施設は20年間稼動させることを予定している。常に地滑りの監視を続け、危険に備えなければならないし、風化しやすい蛇紋岩地帯であるため、再び補強工事が必要となる可能性も高いあるが、その費用負担は誰がするのか。また20年後に廃棄物を埋め終わった後、財団は解散されるが、その時に跡地を引き取るのは誰なのか。高知県環境対策課は「これ以上の追加工事は必要ないと考えている」、「財団は将来解散されることになるが、()跡地の引き取りは20年先のことでまだ分からない」

要するに地滑りをアンカーでとりあえず止めただけで、肝心なことは何も決まっていない。いつ地滑りが起きるか分からないような危険な土地の引き取り手があるはずもない。産廃行政に精通するある自治体の幹部は、「日高村は絶対に引きとらない。とったらおおごと。最終的に県が抱えるしかないだろう」。

建設工事はすでに半分ほど進んでおり、いまさらやめるわけにもいかないのだろうが、県政の将来に禍根を残す重大問題であることを肝に銘じ、しっかりチェックしていかなければならない。(2009年1月25日 高知民報)