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ローカル各局アナが「地デジ大使」として地デジをアピール(10月28日、高知城ホール) |
「地デジまで1000日」−−。平成23年7月の地上デジタルテレビ放送完全移行まで3年を切る中、大方町と佐賀町が合併した(平成18年3月)幡多郡黒潮町(下村正直町長、人口約13000人)で、町がケーブルテレビ(以下CATV)を敷設する「情報通信基盤整備事業」計画(※)がブロードバンド化・地上デジタル放送対応などを名目に6月に浮上し、急ピッチで準備がすすんでいます。下村町長によると来月12月町議会には関連予算が提案される予定。16億円の巨額事業費、将来にわたる管理運営コストなど、町民にとって重大な問題であるにもかかわらず、性急に計画をすすめる執行部の姿勢に町民から批判の声が出ています。
計画の概要が町民に示されたのは今年6月議会。下村町長は「町内全世帯にCATVを整備したい」と表明して、7月から小学校区14カ所で説明会を実施。9月議会では町長が「不退転の決意で取り組む」。9月末から10月にかけて再度49カ所で説明会を開いて住民説明を終え、12月議会での関連予算議決を予定しています。町民が計画を知ってからわずか数カ月。駆け込みともいえるような性急さです。
下村町長は取材に対し「たとえばJAがインターネットを使った農産物販売事業を全国展開する時に情報基盤がなければ参入できないなど、情報基盤整備は黒潮町にとって道路と同じようにどうしても必要なものと考えている。住民の声をよく聞くことが必要な課題もあるが、基盤整備は意見は聞きながらも、行政の判断ですすめる課題。アンケートで住民に賛否を問うようなことはしない。12月議会には関連補正予算を提案し、議会の承認を得たい」とコメントしました。
■「金使うなら暮らしにまわせ」 反対派議員が連名ビラ
16億円という巨費を投じ、将来にわたって町民に負担を強いるCATV事業を、わずかな期間で見切り発車しようとする執行部に対し、町議会からも反対の声が上がり、反対派議員が連名で計画の問題点を指摘するビラを配布しています。
町の説明会に出席した旧佐賀町の住民は「合併の時と同じ。えいことしかいわん」。旧大方町の住民からは「黒潮町のインターネット人口は17%しかいない。ブロードバンドを望んでいる町民は多くないし、やる者はとっくにNTTのADSLを利用している」、「今でもデジタル放送は映るのでケーブルテレビに入るつもりはない。町は『金がない』と言ってあらゆる予算を切っている。こんな金があるなら他にやるべきことがある」、「毎年人口が減っているのに町の説明では加入者を右肩上りにして黒字を見積もるなど、見通しの甘さは話にならない。結局赤字は町民の負担になる」と厳しい意見が相次いでいます。
■対照的な四万十町の取り組み
黒潮町の性急なCATV導入への姿勢と対照的なのが隣接する四万十町(18年3月に窪川町、大正町、十和村が合併)です。同町では3町村の合併時にすでに旧十和村が全村を対象にしたCATV網を運営していたこともあり、CATV網を全町にエリア拡大することは庁舎の建て替えとともに、合併の際の大きな争点となっていたという経過がありました。
18年の合併直後から2年間かけて、2回のアンケートによる住民の意向調査、合計200回に及ぶ各地域での説明会を実施して住民の合意形成をはかり、町が採算ラインとする加入率70%を超える73%の仮予約(窪川地区)を得て21年4月開設にむけて取り組みをすすめています。四万十町企画課ケーブル推進室では「住民への説明はかなりやってきたが、反対意見はまだある。理解してもらうためには引き続き努力しなければならない」。
このような四万十町の取り組みと比べて、黒潮町のやり方はあまりにも性急。強引な見切り発車は、将来に禍根を残すものです。
■民放3局 佐賀中継局整備せず
黒潮町のCATV計画と連動するように、6月に県内民放3局(高知放送、テレビ高知、高知さんさん)が、デジタルテレビ放送に対応するための佐賀中継局の整備は困難であり、CATVによってデジタル放送の視聴環境を整備するよう町に要請していたことが分かりました。
旧佐賀町住民への町の説明会では、このことをもってCATVを選択しなければ、民放テレビが見ることができなくなるかのような説明がされ、CATVへと住民を追い込む材料として利用されています。
佐賀中継局は、これまで21年に民放3局によって整備が計画(NHKは独自に整備予定)されていたにもかかわらず、町の計画に便乗するような形で整備しない方針へ転じた民放3局に、旧佐賀町の住民からは「放送事業者としての責任放棄」、「町政への介入ではないか」という批判が上がり、日本共産党幡多地区委員会が民放3社に対し公開質問状を出しています。
テレビ高知の井上良介・報道技術センター長(取締役)は「6月24日、町がCATVをやるのであれば多額の費用がかかる中継局整備ではなく、ミニサテライト局など他の方法で対応させてもらいたいという趣旨の申し入れをしている。CATVを計画している他の自治体にも同じ申し入れをしており、あくまで検討をお願いするというレベルの話。介入などというものではない」と取材に回答しました。
民放3社としては、佐賀中継局の電波のコンデションが地形的な理由で悪いことから、中継局に投資しても視聴可能戸数が思うように増えないため、できればCATVで肩代わりしてもらいたいというのが本音と思われますが、町のCATV計画の加入世帯目標は全世帯の50%でしかなく、仮にCATV計画が実施されたとしても、民放3社が中継局の整備を放棄する理由にはなり得ません(NHKは中継局を整備する方針)。
※黒潮町のCATV計画 ブロードバンド化、防災対応、行政情報提供、地上デジタルテレビ放送対応、携帯電話の圏外地域の解消などを目的にした事業。総事業費は約16億円。うち3分の1は国補助、20分の1は県補助を利用し、残りは合併特例債。特例債は10年で返済し、7割は地方交付税に加算されることから最終的な町の負担は2億7000万円程度という説明。町民負担はテレビ放送の契約のみ月額1000円、インターネット利用料月額4000円。通常は5万円程度かかる加入料については無料。運営見積は黒字だが、毎年15世帯の加入戸数を増やす努力目標を前提にしていたり、機器更新のための積立金が計上されていないなど不安材料も多い。(2008年11月2日 高知民報) |