2008年10月26日

県内工業高校 高校生が授業で原発見学 教員の六ヶ所村派遣も 予算削られ苦肉の策
環境エネルギー学科の生徒に伊方原発を授業で見学させていた安芸桜ケ丘高校(安芸市桜ケ丘) 
県立工業高校の生徒を授業の一環として原子力発電所の見学に行かせたり、高校教員を青森県や福井県の原子力関係施設に派遣する研修が高知県内で取り組まれていることをご存知でしょうか。原子力発電や高レベル放射性廃棄物処分場建設問題は県民世論を二分する重い政治課題であり、学校教育が取り扱う場合には、慎重さと公平性が求められます。なぜ高校生を授業で原発見学に連れて行くことになっているのかについて調べました。

この取り組みは、県教委が文部科学省の国費100%の事業として予算化しているもので名称は「原子力・エネルギー教育支援事業」。

平成18年度から事業化され、19年度には安芸桜ケ丘、東工業、高知工業、須崎工業、宿毛工業と、すべての工業高校で生徒の伊方原発見学、東工業の教員2人が青森県の六ヶ所村の核燃料サイクル施設や北海道の地熱発電所を見学する研修が実施されました。

20年度は安芸桜ケ丘が昨年に続き伊方原発見学を年内実施し、東工業の教員が福井県の原発を見学する予算が計上されています。また9月補正予算で須崎工業にこの事業を使って太陽光発電のパネル製作するための費用が交付されました。

授業として高校生を原発見学に連れて行くというデリケートな内容を含む取り組みであるにもかかわらず、18、19、20年の県教委の県議会に対する予算説明では、原発見学が含まれるという肝心の説明が一切されていないことから議会で質疑はゼロ。県会議員にもその認識はありません。

文科省への取材からは(内容は後述)、この事業は教育関連予算からではなく、原発PR用「立地対策」費としての予算から支出されている事業であり、原子力発電を必ず関連付けなければならない性格を持つ交付金であることが分かりました。

今年も生徒の伊方原発見学が計画されている安芸桜ケ丘高校を訪ねました。取材に応じた吉松儀久校長は「環境エネルギー学科の授業として、クラスの15〜20人をバスで伊方原発、西条の火力発電所見学させている。バス代に予算がつくので生徒の交通費負担はない。原発に賛成とか反対ではなく、あくまでも教科書に出てくる発電所の技術的な学習として取り組んでいる」との回答。 「電力会社の一方的なPRを聞くだけになるのではないか」との問いかけには「安全性や廃棄物の処理に課題があり賛否が分かれていることは授業で補強して一方的にならないようにしている。原発見学だけでなく、他の取り組みもやっているので理解してほしい」と述べました。

同校では「原子力・エネルギー教育支援事業」予算から、同校生徒が地元小中学生にソーラーカーを使って授業をする「エネルギー教室」や、地元小学校に高校生が出向きネオジウム磁石を用いた発電実験を披露する「出前授業」、高知工科大との連携などの予算も捻出されています。

学校予算削られ苦肉の策の側面も 

ある工業高校の関係者は「これがなくなると材料費が調達できないので困るというのが本音。以前は21ハイスクールプラン推進費という校長裁量の経費が一校数百万円あったが、今は毎年削られ50万円程度まで減った。片方では特色ある学校づくりを求められる。工業高校は物づくりが命。どうしても材料費が足りない。これまでやってきた取り組みを継続させるために、国の思惑はあるかもしれないが、原子力関係の予算を上手く使って予算を引っ張っているのが実際だ。原子力を特段やりたいわけではないし、個人としては疑問もあるが、材料費を得るのに他に方法がない」と話します。

この関係者が話すように現場としては「苦肉の策」であり、国の制度を利用して生徒のための予算をとってきているという側面は確かにあるものの、結果的に国民の意見が二分し教育的に慎重な扱いが求められる原子力発電を、判断力の乏しい高校生を利用し学校が授業で「立地対策」をすすめることにつながる危うさは否定できません。

川村文化美・県教委高等学校課長の話 県教委としては原子力だけはなく幅広いエネルギーを学ぶものと位置づけているが、原子力を教える場合には一方的に安全性だけを強調するようなものになってはならないのは教育として当然だ。廃棄物の問題点や賛否が分かれている問題であることを、きちんと教えていく必要がある。

文科省に電話取材した時の担当者とのやりとり

−−文科省のどこのセクションの予算なのか。
立地地域対策室 研究開発局開発企画課立地地域対策室というセクションから出ている。この課の主たる業務は原子力発電の広報をすることだ。
−−予算の名称は。
立地地域対策室 「原子力・エネルギーに関する教育支援事業交付金」。創設は平成14年。高校だけでなく小中学校も対象としている。
−−事業の目的は。
立地地域対策室 原子力についての理解を深めること。他のエネルギーについて学ぶ時にも原子力を含めて考えてもらうことが必要だ。
−−9月補正で須崎工業に太陽光パネルだけで交付金が下りているのはなぜか。
立地地域対策室 県教委の担当者からは、まず身近な発電から学ぶとっかかりとしてまずソーラーをやり、翌年以降は原発もやっていく事業展開と聞いている。(2008年10月26日 高知民報)