2008年10月19日

地層処分PR講演会を高知新聞が一体開催 労組が社に抗議文提出
会場には藤戸社長、山本専務の姿もあった(10月8日、かるぽーと)
原子力発電により発生する使用済み燃料を再処理する過程でできる高レベル放射性廃棄物(※1)を地中深く埋設する地層処分場(※2)の建設地を公募している経済産業省資源エネルギー庁が、地方新聞・系列テレビ局と一体化した宣伝活動に力を入れています。10月8日には高知新聞社と高知放送が深く関与した講演会が高知市文化プラザかるぽーとで200人が参加して開かれました。

講演会の正式名称は「全国エネキャラバン 考えよう!ニッポンのエネルギーのことin高知 放射性廃棄物と地層処分」。経産省資源エネルギー庁主催、高知新聞社と高知放送後援。

遠山論説副委員長が出演
 
高知放送の女性アナウンサーが全体司会と写真家・浅井慎平氏との基調対談の相手役を務め、パネル討論ではエネ庁放射性廃棄物等対策室長、原子力安全研究協会処分システム安全研究所長、地元ラジオパーソナリティとともに遠山仁・高知新聞論説副委員長がコーディネーターとして登場しました。この他、講演会の参加者の募集、会場受付や案内、アンケート回収などの実務面を高知新聞社広告局の社員が担い、当日の会場には藤戸謙吾社長や山本邦義専務など、多くの幹部の姿もありました。高知新聞・高知放送の講演会への関与は通常の後援(名義貸し)とは異なる深さであり、資源エネルギー庁と一体になった宣伝活動に取り組んでいたのが実態です。

権力の監視役である新聞社が、国策宣伝の片棒をなぜ担がなくてはいけないのか。高知新聞社広告局の高橋英生広告部長は取材に対し、「事前広告、講演会の開催、事後の記事体広告(※3)をセットで請けている。記事体広告は11月上旬に掲載する。編集とは切り離して、広告局として取り組んでいる」。

資源エネルギー庁放射性廃棄物等対策室によると「この講演会は資源エネルギーの広報事業として全額国費でまかなわれている。平成20年上期の事業は広告代理店・電通が落札し、全国で取り組んでいる」。同対策室に高新の受注金額を聞いたところ「高知新聞への発注は、電通との間の民民契約なので金額は公表できない」という回答でした。

今回の講演会の取り組みに対して、社員の約9割で組織する高知新聞労組(新聞労連加盟)は9月中旬、会社に抗議文を提出しています。同労組の片岡昭夫委員長は「不偏不党、厳正中立という社是に照らして、県民世論が大きく分かれる高レベル放射性廃棄物最終処分場問題へのかかわり方として疑問があるという内容の抗議文を組合として提出した。新聞を利用した政府の巧妙な宣伝に組み込まれている。新聞の使命を考え、読者の信頼を大切にしなければならない」と話す一方、「全国的には後援ではなく、新聞社が主催するところも多い。うちの社は内部で反対の声を上げることができ、大っぴらに議論ができるだけまし。他紙では議論にならないのではないか」。

■「新聞を使った権威付けだ」

講演会では司会の女性アナウンサーが「より多くの皆様に放射性廃棄物や地層処分について知っていただくともに、地層処分事業について考えていただくきっかけのひとつになれば」とあいさつ。写真家の浅井慎平氏が、アナウンサーと対談して「CO2を出さない電力を考えなければならない」、「使っているエネルギーがもう一度新しいエネルギーを生み出すようなしくみに向かわなくてはいけない」などと原発や再処理、プルサーマル発電の推進につながる発言を繰り返しました。

渡辺厚夫・資源エネルギー庁放射性廃棄物対策室長の事業説明に続いて、遠山仁・高知新聞論説副委員長が登壇してパネル討論。遠山氏の役回りは「原子力発電への感想は?」、「東洋町の問題をどう受け止めたのか」、「立地場所選定は困難が予想されるが、国はどう取り組むのか」など予定された回答を引き出すための司会役でした。

講演を聞き終えた同紙のある記者とのやりとり。

−−受け止めは?
記者 施設の必要性を新聞社の名前を使って権威付けすることだけが目的の会だった。
−−なぜ高新がそれをしなければならないのか。
記者 ・・・そこは言いにくい。 
−−記事が左右されることはないのか。
記者 広告と編集は関係ない。これをやったからといって記事への影響はない。

高新労組の片岡委員長は「個人としては思ったより一方的なものではなかったと感じたが、判断するのは県民。偏っていると県民に受けとられる懸念はある」とコメントしました。

解説 2008年1月17日に高知新聞は原子力発電環境整備機構(NUMO)がスポンサーの記事体広告を掲載(遠山仁・論説副委員長が登場)しました。高レベル放射性廃棄物処分場問題は、県民世論が真っ向から対立する高知県にとって極めて重い政治課題ですが、今回、高知新聞は広告の掲載にとどまらず、政府の側に立った宣伝の準備・運営にまで社として深く関わりました。とりわけ社説やコラムの執筆という紙面に重要な影響を持つ幹部記者を再び登場させたことは、同紙のジャーナリズムとしての役割を自ら否定するような重大な問題が含まれています。

この背景には、新聞業界の慢性的な経営難、とりわけ経済的落ち込みの著しい高知県での同紙の広告収入の減少があります。同紙の日々の広告欄の大半は、自社や関連子会社のイベントや書籍の広告で占められており、広告収入につながるものは多くありません。このような中、資源エネルギー庁は地方新聞を巻き込む宣伝を全国で展開。その効果はてきめんで、07年度は四国、山形、福島民報、佐賀、中国、神戸、大分合同、茨城、北国、08年度は福井、山陰中央新報、山梨日日、南日本、高知(後援)、今後は山陽、千葉日報、岩手日報、産経、長崎、徳島各紙が講演会主催を予定しているなど全国の地方紙が雪崩をうって国策宣伝に駆り立てられています。

しかし、高新労組の抗議文提出に見られるように現場の記者をはじめ少なくない同紙の関係者は、このような流れに危機感を抱いています。「記事に影響はない」と言いながらも、「包囲網」がじわじわと狭まる息苦しさが現場に広がっているのが現実だからでしょう。新聞の使命は権力の監視に尽きます。同紙は「闇融資」事件、県警「捜査費疑惑」など、県や県警という権力の「闇」を暴くスクープで県民の信頼を得てきました。昨年の東洋町での騒動に続き、未だ政府が県内への処分場立地をあきらめていない中、国策に与して立地推進の片棒を担ぐ御用新聞化するようなことになれば、県民の信頼は水泡に帰し、「高知新聞」の存在意義が根本から問われることになるのではないでしょうか。

※1 高レベル放射性廃棄物 原発から出る使用済み核燃料からウラン、プルトニウムを取り出す再処理をして残った高レベル放射性廃液を30年から50年かけて冷却し、ガラスで固めた「ガラス固化体」のこと。数万年以上放射線を出し続ける。
※2 地層処分場 高レベル放射性廃棄物を300メートル以上の地中に埋める施設。「ガラス固化体」を金属容器に封入し、粘土の緩衝材で包んで埋める。施設の建設に10年、廃棄物の埋設に50年かかる。容器の腐食、地震による地下水汚染や放射能漏れ、廃棄物輸送時の危険など安全性が疑問視されている。
※3 記事体広告 通常の記事と似た体裁の広告。通常の広告より消費者の警戒心が薄れ注目を集めやすい。記事と広告の境目が不明確という批判がある。07年には裁判員制度の広告とセットになったパックニュースが問題化した(2008年10月19日 高知民報)