2008年9月21日
コラム「アンテナ」 不十分だった通学費負担の議論 
平成20年度高校教育問題検討委での学区制についての議論では、「行きたい学校を主体に選択」できるようにするため、その障害となる通学区域を撤廃すべきであるという声が目立った。

その主力は高知工科大学の英語教授である明神千代氏。米ジョージタウン大の博士課程修了、米海軍士官学校の講師を務めた経歴を持つ人物で、いかにもアメリカナイズされた論法で強力に学区撤廃の方向へと議論をリードした。

一方で、高知市教委に関係する委員は、第1回目の会議では沈黙したものの2回目以降は学区撤廃に抵抗する発言をした。しかし、他に多数参加していた教員の委員から援護する発言はほとんどなく、結果的に学区撤廃に反対するのは「高知市のエゴ」といわんばかりの流れが作られた。

検討委の委員は、県教委が学区撤廃という方向性を持ったうえで、あえて選んだ人選であり、よほどでなければ異を唱えるようなことにならないのは、当然だ。あるいはまったく問題意識のない人物ばかりだったのかもしれない。

報告書を県教委に提出した直後、松永健二・検討委委員長に「学区撤廃によって新たに負担増となる通学費についての議論は不十分だったのではないか」と問いかけてみたところ、彼の回答は「幡多の女性委員が『幡多では今でもたくさんの通学費がかかっている』と言ってたことだけを覚えている。議論が不十分と言わればそうだろう」と言った。

毎月数万円もの負担となり深刻に家計を圧迫している通学費について、「幡多は高い通学費を今でも払っているのだから、他所も払うべき」という程度の議論で、「学区撤廃が望ましい」という報告書が出されていることを保護者が知ったらどう思うだろうか。

今、必要なのは幡多学区も含め、家庭が負担する教育費をいかに抑えるか、家庭の経済力や居住地に関係なく、真に高校を選べる環境を県全体でどう作っていくのか。これが多くの県民の望む方向であり、高校教育問題検討委に課せられた使命ではなかったのだろうか。(2008年9月21日 高知民報)