2008年8月24日
コラム「アンテナ」 請負=丸投げ 教育になじむのか?
香美市土佐山田学校給食センター
平成12年から株式会社ニッコクトラスト(本社東京)という大手県外企業に委託して運営している香美市土佐山田学校給食センター。7月30日に高知市内で開かれた給食関係者の研修会で、昨年12月、同センターに勤務する調理員が調理中に体調を崩し、ノロウィルスへの感染が疑われたために、迅速に調理員の出勤を差し止め、給食をストップして食中毒を未然に防いだという事例が紹介された(検査の結果、陰性だったことが判明)。

この事例はおそらく香美市教委の的確な判断で食中毒を防いだ積極的な教訓として紹介されたものと思われるが、実はこのセンターが民間委託=請負であるが故に話はややこしくなる。

請負の本質は「丸投げ」でなければならず、委託企業の独立性が極めて重要となる。職員の健康管理や出勤停止などの労務管理は、業務の独立性の中核部分であり、すべて請負業者=ニッコクトラストが判断を下さなければならない。

しかし、現実には前記のように香美市教委側の迅速な指示によって事は動いた。現場にすれば当たり前だろう。あっちだこっちだと責任のなすり合いをして食中毒を出すわけにはいかない。民間であろうが、なかろうが、学校給食は教育の一環として提供されるものであり、市教委が責任を持って判断するという感覚は、ある意味当然だ。しかし請負ではそれをやってはならないのである。市教委関係者は「法に違反すると言われても、給食の安全のためには、これしかやりようがなかった」と話す。

香美市教委から連絡を受けてニッコクトラストが大阪営業所の職員を現地によこしたのは発症から2日後。市教委の指示で22人の調理員に受けさせた検査の費用を、ニッコクトラストは「受託業務外のことだから」と支払いを渋ったという。その当事者意識の希薄さには驚かされる(のちに市教委との協議で支払うことになった)。

ちなみに、ニッコクトラストへの委託料は、平成12年には約3800万円(約1600食)だったにもかかわらず、今は4200万円にまで増額している(大きな条件の変動はないにもかかわらず)。契約はニッコクトラスト一社の随意契約。委託費増額のはっきりした理由は市教委からは示されなかった。「一回入ってしまうと、業者を変えることは実際には難しい」(市教委関係者)。

香美市の事例は学校給食への民間委託が、職員の健康や衛生管理というデリケート(調理員の家族に病人が出た場合にも対応しなければならない)で重要な問題への対応に、脆弱さがあることを示した。請負であるがために、法に厳密であろうとすればするほど、迅速で確実な対応ができないというジレンマがつきまとう。コスト面でも一度業者が入ってしまえば、あとは業者のペースで事が運びかねない実態も示している。

それでも香美市は給食センター方式であり、学校内にまで請負業者が入っているわけではない。しかし高知市は将来的に約半分の学校にまで業者委託を広げる計画を持っている。学校長でさえ口を出してはならない請負という「異物」を、学校内に抱えんでいくことが、教育にとって本当によいことなのか。よくよく高知市教委も、市民にも考えてもらいたいが、そのための時間はあまりにも不足している。(2008年8月24日 高知民報)