2008年6月22日
コラム「アンテナ」  本当にすすむのか? 学校耐震化
高知市立追手前小学校
中国四川省の大地震で学校倒壊が相次いだことをうけて、市町村が実施する倒壊する危険の高い小中学校校舎の耐震補強工事への補助率を「2分の1」から「3分の2」へ、建て替えを「3分の1」から「2分の1」へアップする法改正が議員立法で成立した。

南海地震が予想されながら耐震化された校舎の比率が51%にとどまり、全国平均を下回る高知県にとってまずは朗報である。渡海紀三朗文部科学大臣は6月13日、「国の支援を大幅に拡充したので3年以内に危険な校舎の耐震化工事完了を呼びかける」という談話を発表した。

しかしながら関係者に話を聞くと単純に喜べるものではないことが分かってきた。

まず補強の「3分の2」の補助率について。「東海地震」が想定される地域(東海8県)の財政力が弱い自治体(財政力0・5)に対しては、すでに「3分の2」の補助は実施されており、多くの市町村が対象になる静岡県では突出して耐震化が進んでいる。

南海地震が予想される高知県には、そのような特別な支援策がこれまでなかったので、他の地域と同様の「2分の1」になっていた。今回の法改正によるかさ上げは、「その他の地域」も東海並にするという格差解消であり、国民の命を等しく守る立場からいえば、当然のことでしかない。

とはいえ補助率がアップするのは喜ばしいことであるが、これもそう単純ではない。

高知市教委は統廃合が問題になっている追手前小学校の耐震化工事に関する試算を高知市議会に提出した。統廃合をすすめるために、国の補助制度がいかに不十分であるかを強調する立場のもので、動機には「不純」な点もあるのだが、その試算によると耐震のための改築には総額約5億円かかるという。

現行制度(※1 県の独自補助を利用)で工事をした場合、市負担は2億9700万円(負担率58・55%)。新制度で県補助が存続した場合は2億6500万円(52・24%)、県が制度から撤退した場合(※2)には2億7400万円(53・94%)と、いずれにしても数千万円しか差がない。これでは文科大臣が談話で言う「大幅な支援の拡充」とは程遠い。

なぜこのようなことになるのか。最大の要因は補助の「元金」にあたる「事業費」算定が実態と大きく乖離していることにある。「事業費」は実際の工事にかかる費用ではなく、国の一方的な基準で決められてしまう。追手前小学校の場合は、工事費の総額は5億円であにもかかわらず、国の基準では約2億6000万円。半額にしかならない。

このためいくら補助率が「2分の1」から「3分の2」へ引き上げられても、実際の影響は数%にとどまることになる。国が本気で耐震化を進め、児童生徒の安全を守るというなら、「補助率をアップした」と宣伝するだけでなく、「事業費」算定の基準を実態にあったものに改め、実質的に市町村の負担を軽減しなければ、それは単なるポーズに過ぎない。

もうひとつ問題なのは「3年間」という極めて短期の時限立法であること。文科大臣が3年以内に工事を呼びかけた、倒壊の危険があるとされる校舎は、高知市の場合には33棟残されている。

地方交付税の大幅削減で窮乏する市財政の中で、現在の耐震工事のペースは年数件。それを年10件以上にしなければ間に合わない計算になるが、前述したような数%程度の市費負担軽減では、それは不可能だろう。

中澤卓史・県教育長は「3年で工事をすませるのは日程がタイト(きつい)すぎる。県教委としては期間の延長を求めていくことになるだろう」と話す。もちろん期間延長も大事だろうが、緊急に耐震化をすすめるという本来の目的から外れてしまうような気もする。本気で耐震化を進めるならば、財政が窮乏する市町村でも一気に短期間で取り組める手当てを抜本的に講じていくしかない。

このようなことを考えると、今回の法改正は一歩前進かもしれないが、まだまだ小手先という感はぬぐえない。ポーズだけでない児童生徒の命を守るための真剣な検討が必要になっている。(N)

※1 現在、高知県は東海地震と同じ「3分の2」(補強)になるように、県単独で補助率をかさ上げしている。
※2 国の補助率が上がったのを契機に県単は撤退すべきという議論が県教委内にある。中澤教育長は6月6日に取材に答え「国の制度が充実して耐震化が進むなら、県単を使うことはないが、まだ後年度負担など制度の全容が分からない。やめるともやめないともいえない」とコメントした。(2008年6月22日高知民報)