同和地区の「雇用対策」を名目に部落解放同盟県連の肝煎りで協業化された協業組合「モード・アバンセ」に、県が県議会に諮らず県費を密かに直貸して12億円を焦げつかせ、甘い審査で高度化資金14億円を詐取された「闇融資事件」に関連して、市民オンブズマン高知のメンバーが橋本大二郎前県知事らに県の損失を補填するよう求めていた民事訴訟が、被告側が2000万円を補填することで和解したことを受け3月25日、尾崎正直・県知事が記者会見しました。
会見で尾崎知事は外部の視点を取り入れた委員会で、@事件を生み出した当時の原因の解明、Aこの間の県政改革の実践の検証をすすめていくことを明らかにし、橋本氏らが支払う2000万円とは別に、県の損失を少しでも補填するために職員にカンパを募りたいと述べ、さらに「組織の総括をしていないことが一番いけない」と話しました。
徹底的な百条委の調査、それを受けての県政改革から丸7年が経過する中で、事件そのものの「組織的総括」がいまだにできていないかのような尾崎知事の発言は、平成13年以降の同和行政終結と県政改革の意義と重みの認識に不十分さを感じざるをえないものでした。
知事のこの発言を受けて「高知新聞」も、「県民納得の総括示せ」と主張し、「総括はしている」としている橋本前県知事を「責任を棚上げ」と批判していますが、事件当時を知る関係者が少なくなってきていることもあり、何をもって「総括」とするのかという定義はあいまいなまま。「総括」という言葉が独り歩きしているようにも見受けられます。
■同和行政終結の意義
13年5月30日に開かれた臨時県議会は県政のターニングポイントとなる重要な議会となりました。「闇融資事件」の調査をすすめてきた百条委の報告書を全会一致で承認。橋本前知事は事件の背景に「同和行政の重み」があり、「長いものには巻かれろという体質が問題だ」と述べて、「団体対策や一部幹部対策のような同和対策はきびしく総括して出直す」という強い決意を示しました。
橋本県政は、同和対策を根拠付ける法律が失効する13年度末を前倒しして、同和対策本部や同和対策課を廃止、同和団体への補助金撤廃、同和団体との交渉の報道への公開など同和行政に深くメスを入れ、14年度からは同和行政を完全に終結しました(隣保館運営補助金など国の補助制度が残っているものを除く)。
これは単に「同和行政」という一分野の政策変更にとどまらず、県政全体を歪める部落解放同盟への屈服という悪しき体質を総括して、「しがらみ」「特定強者」に毅然とした対応を貫く公正な県政への根本的な転換点となるものでした。この転換を契機に橋本県政は「県民に説明できない仕事は絶対しない」という意識を職員に徹底。念書・覚書の公開、「働きかけ」の公表、情報公開と行政の説明責任を強調して、県職員の意識は事件前とは様変わりしていきます。
17年7月、事件にかかわった元副知事らに、高裁が背任罪で実刑判決を下したことを受けた会見で橋本前知事は「裁判の経過にかかわらず、特定個人や団体への毅然とした対応、徹底した情報公開、県民への説明責任を基本にした県政改革に取り組んできた。厳しい判決を胸に刻みさらなる県政改革、県民に信頼される県政をつくる」と述べ、これまでの総括をさらに前進させていくことで、県民への責任を果たすという姿勢を明らかにしました。
■「検証」の視点
3月25日の会見で尾崎知事は「総括」の内容について「もう一度当時のことを振り返りながら、このような取り組みで十分なのか。さらには8年たった今、現在の行政環境からしてどうなのか、実際に決めたことがしっかり実行されているのか、それを検証していく。二度とこういう問題を起こさないためには不断の検証が必要」と述べました。
さらに中澤卓史・県総務部長(3月27日時点)は取材に答え、「総括の内容は事件当時の究明と、この間の県政改革の検証との2点。13年当時の総括は大ぐくりなもので細部まで至っていない。これまでの総括をふまえて、さらに細部を検証しようというものだ。若い職員は同和行政そのものを知らないので再検証する意義は大きい」と、これまでの総括の基本が変わることはありえず、県政改革の後退はないことを強調しました。
しかし、この間の県政の重大な変化として、尾崎知事が、「闇融資事件」で県政を歪めた元凶である「解同」県連や自民党県議団に昨年の選挙で推薦され、支えられているという事実があります。
「解同」県連は、橋本県政での同和行政終結や県交渉の報道への公開に強く抵抗してきましたが、今年1月10日の解同県連主催「荊冠旗開き」に尾崎知事が出席し、2月11日付「解放新聞高知版」に「(知事が)県知事選のお礼と、解放運動のさらなる前進をと激励した」と報じられるなど、前知事とは距離感が明らかに異なっています。
また「働きかけ」の公表には自民党県議団が「取り扱い要領」制定時から強く反発してきた経過があります。昨年、橋本前知事に「働きかけ」をしたことを公表された自民党の古参県議が激しく橋本氏を批判するなど、「働きかけ」公表が、県政改革をめぐる重要な争点となっているもとで、「再検証」を機に改革を骨抜きにして、後退させようとする力が働くとことへの警戒を緩めるべきではありません。水が澄むには時間がかかりますが、濁るのは一瞬なのです。
現場職員の意識にも知事交替後には微妙な変化があり、「上は現場を本当に守ってくれるのか」という戸惑いがあることを尾崎知事は肝に銘じるべきです。
13年以降の県政改革をリセットして一からやり直すような「総括」や「検証」ではなく、これまでの総括と実践を土台に、部落解放同盟や特定個人に屈服して歪められた過去の県行政の実態を学び、教訓を県庁組織の血肉にしていくこと、公表件数が減っている「働きかけ」公表をより実効あるものにするための改善、同和団体へのこれまでの対応の継続と透明度のさらなるアップに加え、有形無形の圧力に毅然と対応する現場の職員を断固守るというトップの強力なメッセージこそが求められているのではないでしょうか。(中田宏) (2008年4月6日高知民報) |