2007年10月25日

本当に必要か?「全国学力調査」 学校現場の地道な取り組みへ支援こそ大切 
学校に届いた個人票(小学校) 生徒に結果を返すのがこの時期では活用することは困難だ
全国学力・学習状況調査(全国の小6、中3生に実施)の結果が10月24日に公表され、県市町村教育委員会に集計の結果が、各学校には生徒個人の結果を記載した個人票が届きました。調査結果によると、高知県の小学生の国語・算数の正答率はほぼ全国並みの水準であるものの、中学生の国語・数学は全国平均より大きく下がることが数値で示されました。

高知県中学校の正答率は、国語A78・1%で46位、国語B61・0%で沖縄と並び最下位、数学A62・8%で46位、数学B50・6%で46位。トータルで沖縄に次ぐワースト2であったことが関係者にショックを与えています。(全国の平均正当率は国語A82・2%、国語B72%、数学A72・8%、数学B61・2%)

調査結果を受けて大崎博澄・県教育長は「この実態を真摯に受け止め、大きな反省とともに本県の子どもたちの幸せのためにさらに教育改革をすすめていかなければならない」というコメントを発表。高知市教委関係者は「とにかく授業改善に全力をあげる。教員の意識改革が重要」と話しました。

高知県の公立中の学力が全国的に低位にあることは、以前から指摘されてきたことですが、ある自治体の教委関係者は「以前から分かっていたことばかりではあるが、このような形で出されるとやはりきつい」。有形・無形のプレッシャーが関係者に重くのしかかっているのが実態です。毎年このようなことが繰り返されると、わずかな数値の変化に地教委が浮き足立ち、じっくりとした学力向上の足かせになりかねないことが懸念されます。

各学校に届けられた個人票については「中学生には11月の進路面談などで保護者に返して活用する」(高知市教委)とされています。これまで、県教委は小6生と中3生全員を対象にした「学力調査」に参加していく理由付けとして「生徒一人ひとりの指導に生かすため」であると強調してきましたが、卒業を直前にした2学期末に結果を渡されても、指導に生かしようがないというのが現実。

ある中学校の管理職は「調査結果からは生徒たち全体の弱い分野がある程度分かるので、次年度からの授業改善に少しでも役立てたい。でなければこれだけ金をかけたのに税金の無駄遣いになる」。結果を生徒個人一人ひとりの指導に生かすという説明とはずいぶん違ったものになっています。次年度の授業に生かすためであれば、毎年全員を対象にして実施する必要性はありません。

私立中カウントせず

高知県の中学の結果が下位になることは前出の教委関係者の言葉にあるように予想されていました。県教委自身がこれまでも「中学校対策」は焦眉の課題であると繰り返し強調し、「土佐の教育改革」の総括でも「中学校問題」が指摘され、取り組みを懸命にすすめていました。

今回の調査の高知県の結果について考える時、全国的にも私立中学受験が激しい高知市をはじめとする県中心部の実態を考慮する必要があります。

今回の高知県の集計に私立学校分はカウントされておらず、成績上位者の多くの部分が私立学校に「抜ける」現実の中で、公立中の結果が低くなるのはある意味当然です。

また今回の調査結果では、就学援助を受けるなど経済的に困難な家庭の生徒の結果が低い傾向があるとされていますが、家計に余裕がある家庭の多くは生徒を塾に通わせており、家庭の経済力で学力に差が生まれているのが実際。家計に余裕のある家庭の生徒の多くが私立中学に進み、「高知市の就学援助を受けている率は、全国的にもかなり高い」(高知市教委学事課)という現実の中で、高知県の公立中が学力を始めとする様々な困難を抱えるのは想定されることです。

大切なのは、このような分かり切った問題を、国がことさら指摘しランキング化して、「競争」をあおることではなく、解決のために必要な手だてをうつことでしょう。家庭の収入に関わりなく学力をつけることができる授業改善や支援策の充実、少人数学級をはじめとする教育条件の整備を国の責任で実行することではないでしょうか。

文科省は来年度も「調査」を実施する方針ですが、この程度の「調査」に70億円もの血税を投入することの説得力は乏しく、少なくとも、毎年全員を対象にやらなければならない理由は見あたりません。このような金があるなら、実際に困難を抱える地域の教育を支援するためにこそ投入すべきではないでしょうか。(2007年10月25日高知民報)