2006年10月15日

県民不在 どこへ行く「県立大改革」 県民の学習権保障軸にした議論を

女子大と短大が同居している永国寺キャンパス
10月6日に閉会した9月県議会で大きな争点となったのは「県立大学改革」でしたが、執行部は県立高知女子大の永国寺キャンパス(文化学部)を、池キャンパス(現在は看護学部、社会福祉学部がある)に移転統合するための補正予算を提出し、県議会の賛成多数を得て成立しました。予算審議では、日本共産党と緑心会が、関連予算が永国寺キャンパスの廃止につながることから、看護学部充実にかかる経費以外の県立大学整備費の減額修正を求めました。

執行部は9月、永国寺キャンパスの女子大機能を池キャンパスに統合、夜間の短期大学は廃止して新設する法務総合学部を高知駅前の複合施設に設置する「基本計画」を発表しましたが、議会側は9月議会で「基本計画」の承認を避け、判断を先送りしています。

「県立大学改革」をめぐっては、橋本大二郎県知事と青山英康・県立女子大学長の「溝の深さ」がさかんに強調されました。橋本知事が青山学長に「会うたびに言うことが変わる」と不信感を記者会見の場であらわにするなど、両者に感情的なもつれがあるのは事実で、予算を審議した県議会企画建設委員会では青山学長と執行部を同席させた場で学長が知事批判を繰り返す場面もありました。

@本質的ではない「溝」 

しかし「溝の深さ」ばかりに目を奪われるのは本質的ではありません。県と大学の「溝」と言われているのは、@男女共学化、A法務総合学部の設置についてですが、共学化について手法や時期に違いがあるものの、共学化の方向で両者は一致していますし、法務総合学部についても青山学長は「女子大にもってくることは反対。県独自にやってほしい」というスタンスで、設置そのものに反対しているわけではありません。

つまり、永国寺キャンパスから大学本体の機能をなくしていくという点では、両者の思惑は結果的に一致しており、一方で自民党県議団には駅前複合施設に強行に反対する議員が多いことからも、今後の議論次第では法務総合学部を含め池キャンパスへの統合という流れが出てくることも十分考えられます。「溝」が埋まるかどうかが問題なのではなく、埋まった後に示される大学の内容が、県民の学ぶ権利を保障するものになるのかどうかが肝要でしょう。

A短大「廃止」では一致

「県立大学改革」を考える上で、夜間の高知短期大学が50年余果たしてきた社会人教育の役割を評価し、今後どう発展させていくのかは県民の学習権保障の上で避けて通れない課題です。

しかし、県議会では短大廃止の問題点を指摘する議論は非常に低調で、日本共産党と緑心会以外の会派からはほとんど意見が聞かれませんでした。県執行部、以前から短大廃止に執念を燃やしてきた自民党をはじめとする県議会多数派、短大の社会人教育機能を受け継ぐ新学部の受け入れを拒否する青山学長の間で、短大の「廃止」だけが一致してしまっている現状があります。

9月29日の県議会予算委員会で橋本知事は、吉良富彦議員の「県立大学改革」問題の質問に答え「短大学士という修了証書を差し上げることはできないが、それ以外の学習権は全て保証する」と繰り返し答弁しました。この知事答弁は、仮に短大が廃止されてしまった場合でも、法務総合学部に短大が果たしてきた夜間開講をはじめとする社会人教育機能を引き継がせていくうえで重要な意味を持つものです。また社会人教育機能の保障が担保されない限りは、短大廃止を見切り発車することは許されないということにつながります。

B核心は永国寺キャンパス

知事答弁の趣旨をくめば、社会人教育機能を幅広く持たせるという法務総合学部のキャンパスが交通の便の悪い池地区になるということはあってはなりません。その点、高知駅前の複合施設であれば、交通の利便性という点ではクリアされますが、一方で昼夜あわせて約800人もの学生を受け入れる大学が駅前ビルに入るのかという懸念はぬぐえません。

大学機能を持たせるためには、グラウンドや体育館が当然必要ですが、図書館や文化ホールと一体化したビルでどうやって共存させるのか。予算審議の中で執行部は、体育館はビルの中に作ると述べましたが、グラウンドについては回答することができませんでした。

交通の利便性や面積を考えあわせると、法務総合学部をもし新設するというのであれば、永国寺の現女子大校舎を改築するのが最も合理的で安上がりということになります。コストがかかる上に狭隘な駅前複合施設に無理やり大学を押し込もうとするような執行部の姿勢は合理性に欠け、県民の理解が得られるものではありません。他施設との複合を考えるのであれば、高知駅前よりも、永国寺に大学と図書館機能を集積して、文化ホールは現状の改築で使用するほうがはるかに合理的だという指摘もあります。