2006年6月25日

NHK・FMはいらないのか 廃止は地方切り捨てに拍車
NHK高知放送局のラジオスタジオ
竹中総務相の私的懇談会「通信・放送の在り方に関する懇談会」(座長・松原聡東洋大教授)が6月6日にまとめた最終報告書は、NHK「改革」についてFM放送と衛星放送のチャンネルを2011年までに削減することを求めています。NHK・FM放送はクラシック音楽など良質な教養番組を提供することを目的に1957年から主要都市で放送開始。高知県では69年から放送されています。NHK・FM放送が無くなった場合に県民生活にどのような影響がでるのかを考えます。

NHK「改革」は、職員による使い込みや犯罪の多発、「従軍慰安婦」をテーマにした番組を自民党国会議員に「検閲」させ政治介入を招いた問題への国民的な批判を受け止めることが目的であったにもかかわらず、出てきたものは受信料の義務化やチャンネル削減などにすり替えられていました。

 「最終報告」はNHK・FMについて「民間のFM放送や音楽配信サービスが普及している現状では、多彩な音楽番組の提供という公共放送としての役割は既に終えた」と述べ「民間開放する」としていますが、実態とかけ離れた認識です。
 
重厚な番組づくり

「最終報告」は民放やネット音楽配信で、NHK・FMの代替ができると述べていますが、両者まったく性格が違います。民放はディスク・ジョッキー番組が中心で音楽の大半は最新のJ・POP。ネット音楽配信も同様の傾向です。片やNHKは、商業的に採算のとれないクラシック、ジャズ、邦楽、合唱、ラジオドラマ、演歌や良質のトーク番組などがメインで、CMなしでじっくり聞かせる重厚な番組作りをしています。

92年に開局した民放FM「エフエム高知」の井上至道・編成専任部長は「民放にはスポンサー企業のイメージアップという目的があり、NHKは民放で採算がとれない分野でじっくり重みのある番組を作っている。番組の作り方は全然違い、リスナーも棲み分けができている。トータルでリスナーが楽しくラジオを聞いてもらえるのが大事ではないか」とNHK・FM廃止には否定的な見解を示しました。

災害時の対応

FM放送で使用する電波は超短波(テレビと同じ)。性質が光に近いため見通せる範囲であれば良好に受信できる反面、山の陰になると受信できないという特性があります。そのため広大な山間地を持つ高知県で、受信エリアを確保することは並大抵ではありません。

NHKは高知県内に20のFM送信局を設置しています(高知、中村、須崎、宿毛、安芸、土佐町、大豊、吾川村、室戸、室戸岬、土佐大月など)。この数字は四国各県と比して(愛媛16、香川1、徳島14)最多であり、受信エリア確保が困難でコストがかかる地域特性を示しています。この高知県でNHK・FMが無くなったらどうなるでしょうか。井上至道・エフエム高知編成専任部長は「うちの送信所は6つ。視聴可能人口は平野部に集中しているため人口ではNHKと大差ないが、エリアはかなり違う。山間部ではFMはNHKだけという地域もかなりある。NHKにはしっかり役割を果たしてもらいたい」。

大災害時にはテレビより、乾電池で長時間動作するラジオが被災者の情報収集に役に立つことは、阪神大震災の教訓でも明らかです。ラジオは各家庭や車に必ず装備されている県民のライフラインです。NHKはラジオ第1、第2のAM波(中波)とFM波という3チャンネル・2系統のラジオ放送を持っていることが(AMは深夜は外国電波と混信するのでFMで同じ番組を流している)、災害対応への強み。集中豪雨など局地的災害時でも地元局の判断で的確に災害報道に切り替えることができます。

文化面、災害への対応いずれもNHK・FM放送の役割は「終えた」どころか、ますます大きくなっています。とりわけ山間地が多く、災害常襲県の高知県にとって、なくてはならない存在であり、山間部切り捨てにつながるチャンネル削減は到底容認できるものではありません。