2005年10月2日            


住民保護の具体策皆無 国民保護法高知県計画案が明らかに


                   着々と進む戦時体制


住民や市町村を戦時体制へと動員する「国家総動員体制」づくりにつながる「国民保護法」を県単位で具体化する「高知県国民保護計画」の原案がこのほど明らかになりました。「計画」は県民を「保護」する具体性は極めて乏しい一方で、啓発や訓練など「戦時体制」への思想動員を強化し、「有事」の時に国県が市町村や民間企業を指揮命令下に掌握するためのマニュアルというべき内容になっています。

県計画の原案は、9月22日に開かれた第2回県国民保護協議会幹事会で示されたもので、A4サイズ100ページ以上に及ぶ膨大な内容ですが、国から下りてきた雛形と寸分違わないもので、高知県の独自性はほとんどありません。

■「被害想定は困難」

 「計画」は、高知県で武力攻撃(@着上陸侵攻、Aゲリラ特殊部隊に寄る攻撃、B弾道ミサイル攻撃、C航空攻撃)が発生したり、恐れがある場合に県民を安全なところへ避難させることが最大の目的のはずですが、最も重要な出発点であるはずの、どのような攻撃が、どこにあり、どれくらいの被害が出て、住民がどこへ避難するのかという肝心なことが何一つ想定されていません。計画を説明した県危機管理課の職員自身「被害を具体的に想定することは困難だ」と述べていました。

計画にかすかに書かれているのは、弾道ミサイルの場合は「屋内避難」、ゲリラ等の攻撃は「当該要避難地域からの避難または屋内避難」、着上陸侵攻の場合は「国の指示を待つ」、NBC攻撃(核や生物兵器)の場合は「風下を避ける」など抽象論だけ。県が対策を講じることなど不可能なものばかりです。

県国民保護協議会会長を務める橋本大二郎知事は5月30日の第1回協議会のあいさつで「いざという時にどういう道路を使って避難するか、救援物資を誰がどのように運ぶのかを県民に示す必要がある」と述べていましたが、知事が言うような計画にはまったくなっていないのが現実です。

震災による津波被害に対応する計画であれば、予想される被害をシミュレーションし、高台の避難場所までの避難路を確保することなど対策を具体的に想定することができますが、人為的にひき起こされる予測不可能な「武力攻撃」に対応して県が避難計画を立てようなどということはどだい無理な話。できもしないことに莫大な労力を使うよりも、焦眉の課題である震災への備えを強化しつつ、戦争が起きないように、アジア諸国と平和共存の道を歩むのが最も県民の利益に叶うものです。

住民の避難方法の具体性の無さの反面、詳細に具体化されているのは指揮命令系統。国民保護法が発動された時に、実質的にアメリカ軍と自衛隊の指揮下に県・市町村や通信・運輸・電力・放送局などを組み込む仕組みを整備することに主眼が置かれています。また住民に「北朝鮮がミサイルを撃つ」「中国が攻めてくる」などと脅威をあおり「戦時」への備えを刷り込む啓発や訓練の実施についても強調されています。

民間放送局の懸念

第1回協議会には欠席した県下の民放4社(高知放送、テレビ高知、高知さんさんテレビ、FM高知)ですが(放送局で出席したのはNHKだけ)、この日の幹事会には4社とも代表が出席しました。

県計画では「速やかに避難の指示の内容について正確にかつ簡潔に放送するものとする」と、「有事」の際の放送局の義務を規定していますが、放送関係者には報道介入に道を開くのではないかという懸念がくすぶっています。この日の幹事会ではテレビ高知から出席した幹事が「指定地方公共機関(報道機関のこと)が提出した業務計画について(対応策を事前に県に提出することになっている)県が助言するとあるが、助言されたら言うことを聞かねばならないのか」と介入を危惧する発言を行う場面も。事務局を務める県危機管理課は「自主性を尊重する」と繰り返しましたが、ひとたび「有事」と認定された時に、放送局に報道の自由が担保されるとは到底考えられません。ある民放幹事は「この保護計画にはあいまいさがある。一番怖いのは『大本営発表』の片棒をマスコミが担がされることだ。国が言うことが常に正しいとは限らない。そうはさせないため参加して内部からチェックしていくべきだと考えている」と出席理由について話しました。