2005年7月24日


県やみ融資二審判決を受けて 
                  
                                               梶原守光

7月12日、「県やみ融資事件」で背任罪を問われた元副知事らに高松高裁で実刑判決が下ったことについて、県議会百条委員会元委員として真相枚解明にあたった梶原守光弁護士から寄せられた論文を紹介します。

改めて県やみ融資事件とは

(1)県は同和行政の一環として、平成8年、縫製業「モード・アバンセ」に高度化資金14億円余を融資。ところがこの融資はモード社側の詐欺により、県を騙して借り入れたもの(有罪確定)。

(2)ところが高度化資金融資実行の翌月、操業直後の「モード社」は早くも倒産の危機に瀕し、県に対して10億円余の追加融資を要請。県は「モード社」を倒産させる訳にはゆかないと、県議会にかくし、審査会にもかけず、十分な担保もとらず、特別の融資制度を新設。別予算を流用し、しかも異例の危険をともなう直貸(じかがし)で、密かに10億円余を融資。

(3)翌年再びモード社は倒産の危機に。またまた県に融資を要請し、県は前回と同じ手法で2億円をやみ融資。それでもモード社は立ち直れず、倒産し、県に約30億円の損害を与えたというもの。

県議会の告発

平成12年、県議会はあまりにもひどいやみ融資の実態を「特定の協業組合に対する融資問題等調査特別委員会(百条委員会)をつくって徹底糾明し、詐欺・背任などで刑事告発を行いました。 「モード社」による高度化資金の詐欺罪は有罪が確定。残る行政側(副知事、商労部長、商工政策課長)の責任を問う背任罪は、公金融資についての初の司法判断として注目されました。

裁判所の判断

一審判決は、前記(1)の詐欺被害の認識が被告らになかった。被告らの融資は民間融資と異なり、同和行政の政策的判断であったこと等を強調し、前記(2)の10億円は無罪、前記(3)の2億円のみを有罪とする判決でした。

今回の二審判決は、一審判決を破棄し、被告らの行為は「モード社」が倒産すると、(1)の14億円余の金を騙し取られたことが明るみに出て、厳しく責任を追及されることから、それを避けるために(自己保身)、(1)(2)の融資を行ったとして、公金融資と民間融資の違いを考慮しても、公務員の裁量権の限界を超えて、背任罪になると認定し、前記(1)も(2)も有罪として実刑を言及しました。
 
二審判決の意義

(1)本件「やみ融資」は、同和行政のゆがみ、行政と一部同和団体幹部とのゆ着を背景としたものであり、それなくしては起こりえないものでした。県議会の告発にはその認識がありましたが、その司法判断を求めることはできませんでした。

(2)司法判断では、本件融資が、高度化資金を騙し取られた責任の追及を避ける自己保身のための行為だったのか、行政の政策目的実現のための融資なのかの争いとなりました。一審判決は後者を強調しましたが、これは明らかな事実誤認と思われます。

何故なら政策目的によるものであるなら、何も議会に隠して、前記の如く違法ずくめの手法で融資する必要などなく、公然と議会に相談して、手続きも合法的にやればよかったわけです。それをあえて隠して、秘密裏に非合法で行ったのは、公金詐取の実体が表に出て責任追及されることを何とか避けようとして非常手段を取ったとしか考えられません。その意味で二審判決は本件融資の実体を直視しているといえます。

(3)当時の県議会は調査特別委での真相究明を通じて、その実体のひどさを実感しました。司法判断の争点となった、公金融資と民間融資の違いは百も承知の上で、行政の裁量権も承知の上で、それでも本件融資はその限界を明らかに超えて、違法であると判断し、県民の代表としてあえて刑事告発をしたものであり、その意味でも二審判決は納得できるものです。

(4)この二審判決は、行政の公務執行行為としての公金融資について、全国で初めて刑事責任を明確にしたもので、全国の行政に大きな影響を与える画期的な判決です。

それにしても残念なのは、この判決を受けての県の庁議(幹部会議)での一部幹部の発言です。 報道によれば、この二審判決が、今後の行政執行を萎縮させる心配がある旨の発言があったとのことですが、このやみ融資ほどの違法、乱脈なことさえしなければ責任を問われることはなく、萎縮する必要は全くありません。これほどまでに事件の実体が明らかになった今日でも、この判決を厳しい教訓として今後に生かす前向きの姿勢ではなく、「行政を萎縮させる」などと受け止める県幹部がいることは、県行政のさらなる改革の必要性を実感させるものです。