2005年5月18日


銭湯なくなり入浴できない高齢者増加 「旭地区に公衆浴場を」 市民が高知市に要望   


         昨年末廃業した旭地区唯一の銭湯


高知市旭地区で唯一営業を続けていた銭湯が廃業したことにより、入浴する機会を奪われる高齢者の増加が地域で大問題になっています。「誰もが風呂に入れる権利」を実現しようと地域住民が集まり「旭に公衆浴場を存続させる会」を結成して運動を始めています。この他にも同市曙町のいづみ湯が6月末で廃業することになっているなど、地域に公衆浴場を存続させる課題は全市的な問題に発展してきています。

地域唯一の銭湯・日の出湯が廃業したのが昨年12月。以来、「風呂に入れずに困っている」という声が地域で聞かれるようになりました。銭湯廃業の影響を最も受けたのが旭地区の南部・旧市街地です。旭南部のエリアは古い住居が密集しているのが特徴で、非常に高齢者の多い地域。旭地区全体の高齢者率は21・6%で、高知市全体の平均19・2%と大差ない数字ですが、これは北部の福井・横内(大半が一戸建ての持ち家)との平均値であり、南部に限ると南元町31・9%、元町35・1%、中須賀町33・7%、赤石町31・9%、旭町3丁目33・6%、下島町32・8%、縄手町32・1%など(平成17年4月現在)高齢化率は軒並み3割をオーバー。高知市でもトップクラスの高齢化率で、風呂がない賃貸アパートに住む高齢者が数多く存在しています。

       が日の出湯のあった場所 円内が影響が大きいと思われる地域

日の出湯の廃業後、家に風呂がない住民はどうやってしのいでいるのでしょうか。元気な高齢者は風呂のある地域に転居したり、電車や自転車で数キロ離れた曙町や越前町の銭湯に通っていますが、交通費がかさむため2日に1回入っていたのを、3日に1回、週1回へと回数を減らして対応。また引っ越す余裕がなかったり、体調が悪い、交通費が負担になる高齢者は「今年に入って1回も風呂に入っていない。もうあきらめました」と体を拭くだけで我慢したり、鏡川で体を洗っているという深刻なケースもあります。



         高知市健康福祉部長との話し合い

4月21日、「旭に公衆浴場を残す会」は高知市の沢本義博・健康福祉部長と話し合いを持ちました。風呂に入れず困っている住民が窮状を説明し、「人が風呂に入ることは憲法25条で規定された、健康で文化的な最低限度の生活の具体化。行政にも責任はあるはずだ」と訴えました。沢本部長は「困っている住民がいる現状は分かる。中学校区単位程度に1軒は銭湯がほしいが、市が銭湯を経営するわけにはいかない。銭湯も1日の来客が30人程度しかなくては営業を続けるのは困難だろう。なぜ廃業になるまで放っておいたのか」などと述べましたが、同地区にある市営住宅にさえ風呂のない世帯が未だ数多くある現実をみれば、市が傍観者的に眺めているだけでは行政の責任は果たせません。

「公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律」※は、現在の銭湯への行政の補助制度(施設改修の時に3分の2の助成がある)の根拠になっているものですが、この法の精神に立った時、地域から銭湯が消滅するという緊急事態の解決に向けて、行政が当事者として住民とともに真剣に考えていく必要があります。廃業した銭湯を市が借り上げて補修して、民間NPO法人に運営を委託するなど、従来の発想の延長線上ではない大胆な方法を探ることが急がれます。まだ現存する銭湯のこれ以上の廃業をくい止めるため、運営費用の助成の充実も急務になっています(現在の助成は設備投資の時が主)。

※公衆浴場の確保のための特別措置に関する法律

第3条「国及び地方公共団体は、公衆浴場の経営の安定を図る等必要な措置を講ずることにより、住民の公衆浴場の利用の機会の確保に努めなければならない。
第4条 国及び地方公共団体は、公衆浴場が住民の健康の増進等に関し重要な役割を担っていることにかんがみ、住民の健康の増進、住民交互の交流の促進等の住民の福祉向上のため、公衆浴場の活用について適切な配慮をするよう努めなければならない。


5月17日、沢本健康福祉部長と「存続させる会」の代表が再度会談しましたが、この中で市側は市・日の出湯の所有者・「会」の3者で話し合いをする方向を示しました。予断は許さないものの、市が当事者としての一定の自覚を持つ変化の兆しにもみえることから、今後の動きが注目されます。