2005年4月28日


橋本知事 「落書きあるから差別深刻は誤り」 従来型の「同和啓発・教育」にも疑問投げかけ  


          県人権連と知事の話し合い

部落問題の現状と行政による啓発活動のあり方について、県地域人権運動連合会(竹下芙佐雄議長)と橋本大二郎県知事との懇談が4月26日、県庁内で開かれました。県人連側は竹下議長、西村導郎事務局長らが、県側は橋本知事、十河清企画振興部長、黒田孝道人権課長らが参加しました。

懇談では橋本知事が「私がNHKにいた当時と時代環境は大きく変わった。団体に対する行政の対応も大きく変化し、職員の意識も変わってきている。人権政策のありかたにぜひ前向きな議論を」とあいさつ。西村事務局長は、確認学習会に参加しないなど主体性をもった県の方針が「新たな差別意識」解消に大きく寄与していることを評価。「社会問題としての部落問題は基本的に解決した」という人権連の現状認識を提起し、「部落問題は通常の人権感覚で解決できる段階。県民はその力を持っており、同和啓発をやる必要はない」と述べました。

橋本知事は「まったく啓発をやらなくてもいいという自信はないが、同和関係の教育のやり方も従来のままでいいかといえば、教科書に賤称語を書くようなことが、今の時代にあうかどうか議論が必要」など啓発の必要性は認めつつも、従来型の同和啓発・教育のあり方に疑問を投げかけました。また県下で発生している「差別落書」についても、県民の差別意識が起こしているとは思わないという認識を示しました。

橋本知事は半年前の知事選時には「同和問題は今なお深刻で重い課題」という認識を持っていましたが、今回は部落問題が解決に向かっていることをこれまでになく強調。現状の同和啓発・教育への批判的なトーンを強くにじませ、「差別落書き」についても常識的な判断を示しました。「差別の厳しさ」を根拠に「同和行政・教育」の存続を求める部落解放同盟にとって深刻な打撃になるものです。県はここ数年、実質的に同和行政を終結させる一方で、「依然として部落差別はきびしい」という現状認識から「啓発・教育は必要」としてきましたが、今回の知事発言は従来のスタンスからの大転換につながる可能性も考えられ、今後の「同和行政・教育」への影響が注目されます。

南海大震災誌復刻版に不適切な表現があり県が回収した問題については、不適切な箇所を削除した県の対応を「県人権連は基本的に支持する」という態度を表明しました。


橋本知事の発言要旨 全体的に部落問題が、解決の方向に向かっている認識を持っている。限りなく差別をなくしていくことは必要だが、ゼロにならないと完全解決でないというような考え方はとらない。差別落書きがあるからということを今も一例として言うが、差別落書きや手紙を書いた人物は、明らかに特異な事例で、一般的な意味での「差別意識」が起こしている落書きや手紙とは受けとめられない。中にはそういうものもいくつかあるかもしれないが、限りなくゼロになっていると同じ状況であろうと思う。差別落書きや書簡があるから、まだ根強く差別が残っているという表現をとることは、すでに時代認識として誤りではないか。結婚の際、「どこの出身か意識する」という調査も6割から3割台へ大きく変わってきており、解決の方向は間違いない。

しかし3割余りが、結婚の際「どういう地区出身か意識する」ということは、差別と言えるかどうかはともかく、そうした意識を持っている。そのままにした時、また広めていこうという意識の人もいるのではないか。なんらかの形で啓発は必要と考える。ただ啓発が従来のようなやり方でいいのか、同和教育も従来のままでいいのかと言えば、(賤称語を教えることが)今の時代にあうのかどうか議論が必要だろう。

これまで過去何10年も続けてきたものを、今の時代に啓発だと思ってやっていることが、差別を作り出す要因になっているということは、きちんと検証する必要がある。ただ完全に啓発をやめて大丈夫とは、今の段階では自信を持っては言えない。これまでのやり方を続けていれば、啓発が差別をつくり出すという指摘は、きちんと受け止め、問題が生じているかどうかを検証し、啓発が必要ならばやり方を変えていく必要がある。