2005年4月27日


市町村合併 旧特例法期限切れで一段落 地域に分断と混乱 究極の駆込合併も横行 知事はさらなる合併推進を宣言 


「市町村の合併の特例に関する法律」(改正合併特例法)の期限切れを3月31日に迎え、県内の市町村合併をめぐる動きは山場を越えました。2004年まで53あった県内の市町村数は来春には35になる見込み。国の財政支出削減を目的に始まった「平成の大合併」は県、地元紙の積極的な後押しを受けて市町村に強引に持ち込まれ、合併に最も大切なはずの将来のまちづくりについての議論を棚上げにしたまま、拙速な目先の財政論が先行して地域に分断と混乱が持ち込まれました。一方で住民投票やアンケートで住民が地域の将来を自ら決める意思表示をする住民自治発揚の貴重な体験が生まれました。

県内各地で合併の動きが出始めたのは2002年春頃からでした。その後、2003年7月に越知町が自立宣言し(後に吉岡珍正町長のリコールが起こるが再選)、土佐町で本山町・大川村との法定協議会設置の是非を問う住民投票で反対多数になるなど、合併を否定する動きが表面化します。合併する相手が見つからず自立を選択するしかない自治体(室戸市、安芸市、南国市、土佐市、須崎市、土佐清水市、東洋町など)や、「合併しない」ことを早くから決めた自治体も(梼原町、大豊町、馬路村)もありました。

知事のアクセル発言

2004年に入ってからも野市町・芸西村が住民アンケートの結果、香南市(2町村に香我美町、夜須町、赤岡町、吉川村)から離脱。佐賀町・大方町も中村市・西土佐村との四万十市構想から離脱するなどドミノのように合併を否定する動きがひろがり、順調に合併が進んでいるのは旧伊野町・吾北村・本川村グループ、東津野村・葉山村グループ、高知市・鏡村・土佐山村グループにすぎない状態でした。

遅々として合併が進まない現状に業を煮やした県は2004年5月、これまで市町村の自主性を尊重するスタンスを表明していた橋本大二郎県知事が「ことここにいたっては合併へアクセルを踏む」と直接町村に出向いて住民に積極的に合併を訴えるようになります。しかし橋本知事の「説得」にもかかわらず、その後も田野町(6月)、香北町(7月)、物部村(7月)、三原村(8月)で合併を否定する住民の意思が連続的に示されます。

橋本知事は説明会(8回行った)で「県の財政は極めて困難で、財政再建団体になりかねず、自立する町村を支える力はない」と合併を説く一方「合併すればやっていけるという保証はない」とも述べ、県合併支援室や合併推進派が流布しているような合併をバラ色に描くことはしませんでした。しかし知事が本来合併と無関係な地上デジタルテレビへの対応や学校の耐震化を「合併すればできる」とアメとして印象づけるように吹聴したため、合併を選択した自治体は後々に新たな火種を抱えることになります。

駆け込み合併を推進

 自民党や21県政会の県議と県合併支援室の強力な工作、地元紙の執拗な合併推進キャンペーンにも後押しされ2005年1月9日の西土佐村(中村市との合併を問う)の住民投票では113票差という僅差で賛成が多数となりました。1月30日には大正町で四万十町(窪川町・十和村・大正町)の是非を問う住民投票では「町長が自立をあきらめる」という合併推進派のデマビラが配られる中で30票差で賛成が多数に。

このような流れの中で破綻した「構想」がいびつな形であちこちで息を吹き返します。中芸町(奈半利町・安田町・北川村の田野町をのぞく飛び地)、香美市(土佐山田町・香北町・物部村)、香南市(野市町・香我美町・夜須町・赤岡町・吉川村)、黒潮町(佐賀町・大方町)、宿毛市(宿毛市・大月町)。合併特例債を借りられる期限の3月末までに議決を得るため、まちづくりの論議も財政シュミレーションもおかまいなしの究極の駆け込み合併でした。

3月末までに住民が合併の是非を意思表示する機会が、限界がありながらも用意されていたのは佐川町・日高村(3月20日)、奈半利町・安田町・北川村(3月25日)、野市町(3月27日)、佐賀町・大方町(3月22日)でした。

住民の意思表示の結果、佐川町と北川村では合併反対が多数となり佐川・日高グループと中芸町構想は破綻。佐賀町・大方町では賛成が多数になり黒潮町へ。野市町では投票率6割以上でなければ開票しないという高いハードルのため不成立(投票率は57・05%)となり住民の意思確認なしに香南市発足が決定します。

かたや住民の意思が完全に踏みにじられたのが香美市(土佐山田町、香北町、物部村)。昨年夏のアンケートで反対の意思が明確に示されたにもかかわらず同じ枠組みの合併を首長と議会多数が強行しました。物部村では強権的な手法に村民から強い反発が起こり、地域の核となる消防団員が大量辞職するなど地域に亀裂が広がっています。宿毛市との合併議案を3月24日に採決した大月町議会は、柴岡邦男町長が「賛成が6割でなければ合併しない(賛成は51・34%)」と公言していたにもかかわらず土壇場で駆け込みに転じたことや、宿毛市議会との不協和音から合併議案が否決されました。

「1万人以下の自治体減らす」橋本知事

3年間にわたり県下の市町村を翻弄した「合併狂想曲」はとりあえず一段落し、これからの合併は合併特例新法による対応になります。合併をめぐる騒ぎに巻き込まれなかった自治体が、きびしい情勢の中で自治体を維持していくための議論をすすめていく一方で、合併でゴタゴタした自治体は足下を見据えた議論がほとんどできておらず、合併をすすめる中で矛盾が表面化することも考えられます。合併をあてにして他力本願で努力を棚上げし、駆け込みで借金したような自治体(香北町、物部村など)もあり、合併が決まった自治体の先行きも前途多難です。合併の最大のアメだった合併特例債の使途も、まともに決まっているところは皆無で具体案をまとめて合意に至るのは至難の業。特例債「特需」を期待する業界と「話が違う」と摩擦が起こることも考えられます。

3月31日以降の新法での対応について、県合併支援室は「5月に国が出す指針を見ないとなんとも言えない」と話しているように、新法での財政措置がどのようなものになるかは全く未定(国のさじ加減でどうにでもなる)という3月末の段階で、橋本知事は「高知県には1万人以下の自治体が19も残っている。全国で4番目に多い数字」と問題視。共同事務処理センター設置などこれまでの広域行政にとどまらない方向を打ち出す一方で、「小規模の町村を減らす努力を続ける。秋には合併構想を検討する審議会を設置する条例を秋に提出する」と他県に先駆けてさらなる合併推進を早々と表明しました。

県が人口1万人以下の町村をなくすという方針を「上から」持ち込み合併をすすめることは、合併しても1万人に届かない町(津野町、仁淀川町、中土佐町)があるように、地理的条件が悪く広大な僻地をかかえる高知県の実態とは乖離したものです。

自治体の人口だけを問題にするならば、全県で一政令市にも満たない人口の高知県が、自治体としてふさわしいのかという根本問題にもつき当たり、町村に合併を迫れば迫るほど「高知県の自立」をめざす知事の方針とも矛盾することに。自治体を人口のみで考える「国の理論」に早々とはまりこんでは高知県の知事としての役割は果たせません。国のナショナルミニマムへの責任と地方自治を明確にし、人口が少なく財政力の弱い自治体にもきちんと財源を保障させる地方交付税制度を維持強化させるよう国の姿勢を転換させる以外、高知県と県下の市町村の未来はありません。