2005年4月19日


「差別表現削除するな」? 部落解放同盟県連が南海大震災誌復刻版の不適切表現で県に要求 「賤称語残し」に固執 


       南海大震災誌復刻版 一部修正して再配布されることに

県が昨年12月に発行した南海大震災の県下の被害を伝える「南海大震災誌」(昭和24年)の復刻版に一部不適切な記述があった問題で、部落解放同盟高知県連(野島達雄委員長)の要請に基づく県との話し合いが4月19日、高知市内でもたれました。不適切な表現を削除する県の方針に対し、解放同盟側は「削除するのはおかいしい」と賤称語の記載を残すことに固執する要求をしました。県からは十河清・企画振興部長、宮崎利博・危機管理担当理事、解放同盟からは野島委員長、山戸庄治書記長、藤沢朋洋・中山研心高知市議らが出席しました。

「復刻版」は約1000ページにも及ぶ膨大なもので、当時の被災の様子が克明に記されていることから、震災への備えを県民に啓発するために県危機管理課が復刻して発行したもの。問題の箇所は2カ所。県は県民から指摘を受けて特定の地域を指した「差別を助長するおそれがある表現」(十河部長)を削除したうえで再配布する方針を集団的な討議を重ねて決定しています。

不適切な表現が記載された要因について危機管理課は「事前に全文を読んでいなかった。怠慢だった。古い文書は現在の人権意識に配慮していないという視点がなかった」と事前のチェックができていなかったことを陳謝。十河部長は「(部落問題の)歴史を伝える本であればきちんと書く責務があるが、この復刻版は南海大震災の恐ろしさを一般県民に広く知ってもらうためのPR用資料であり、問題のある記述を修正する行政としての対応を理解してもらいたい」と県の考え方を説明しました。

解放同盟側は「問題のある表現を見過ごしたことに県の体質があらわれている」と県の人権問題への「意識」の不十分さを追及する一方で、「(問題の箇所を)隠しても問題の解決にならない。隠蔽ではないか。生きた教材にすべきだ」と県の削除方針に強く反発。注釈を加えるなどして原文のまま配布するようこだわりましたが、県は規定方針通り問題箇所を削除して再配布する構え。また解放同盟側は「痛みを受けた被差別当事者に一言も謝罪がない」などと、該当地域の解放同盟支部に県から連絡がないことを問題視し、「被差別当事者」=部落解放同盟という立場を繰り返しました。


解説 南海大震災誌復刻版に不適切な表現があったことが判明したのが今年2月。特別措置法の期限切れから3年経過し、「同和行政」が終結したなかでの「事件」対応は県人権行政の真骨頂が問われるものであり、対応の内容が注目されました。過去の県行政では、「事件」が発覚すれば反射的に解放同盟に連絡し、確認学習会に県幹部をはじめとする多数の職員が参加。「行政の差別性」を糾されて、啓発の強化を確約するというパターンが繰り返されてきましたが、今回の県の対応は解放同盟ペースではない主体的なもので、今後の教訓になるものでした。

この日の解放同盟側の要求は、県行政の「意識」の不十分さの追及よりも、問題の記述を「削除せず残せ」ということに力点が置かれていました。県は問題のあった記述の具体的な内容について、解放同盟のくり返しての要求にもにもかかわらず内部の対応方針が固まるまで明らかにせず、この日の席上初めて内容を解放同盟側に知らせ話し合いをしています。県庁内部では人権課を中心に橋本大二郎県知事も加わった人権施策推進委員会を開き、集団的に対応を協議して修正内容を決定。県人権課は記述のあった自治体に事情を説明していますが、解放同盟に「詫び」を入れるようなことはしておらず、「被差別当事者」=解放同盟とは認めていない対応をとっています。

解放同盟が賤称語を削除することに抵抗するのは今回に限ったことではありません。学校で児童生徒に賤称語を教えておいてふざけて発言すれば「差別事件」と大騒ぎする、「差別落書き」を消すのではなく保存して差別の厳しさを「証明」する教材にするため写真を機関紙に掲載するなど、部落差別の解消と逆行する解放同盟の基本方針と同一線上のものです。

県民が広く目にする冊子に不適切な表現があれば、なくすのは当然。震災対策の啓発に特定の地域を「ここはかつて被差別部落だった」と蒸し返す必要はありません(当該地域は地元解放同盟幹部も被差別部落とは知らなかった)。解放同盟の「差別表現を消すな」という主張は、多くの県民や「いつまで部落民扱いするつもりか」という思いを持つ多くの旧同和地区住民にも受け入れられるものではないでしょう。