2005年3月20日


理事会特定グループが経営独占し県関与不能 「公設民営」の危うさ露呈 高知工科大学長問題の背景


               「公設民営」の危うさが露呈した高知工科大学長問題

高知工科大(香美郡土佐山田町)の岡村甫・現学長の再任を同大理事長の橋本大二郎県知事が拒否していた問題は、県民注視の中、知事が3月4日の県議会本会議で一転して再任に同意したことから一応の解決をみました。この背景には県財政の急速な悪化の中で大学経営に危機感を募らせる橋本知事と旧態依然とした感覚の理事会多数派との意見の相違がありました。知事の強引な手法に反省が求められるのと同時に、多額の県費を投入して建設しながら、私立大学として学校法人が運営する「公設民営」大学のあり方について一石を投じるものになりました。

急ぎすぎた「公設民営」

高知県内への工科系大学設立は1991年12月の県知事選で橋本氏が公約に掲げました。橋本氏が知事に当選した翌年には設立への具体化がスタートし、93年9月県議会で早くも関連予算が通過。「公設民営」方式の大学にすることが正式に決まります。当時は国立高知大学に工学部を設置しようという動きがあり、県民の多くは県費負担のない高知大への工学部設置を望んでいましたが、橋本知事は「どこにでもある大学にはしない」と「独自性」にこだわって強引なトップダウンで当時ほとんど前例のない「公設民営」を押し通しました。マサシューセッツ工科大学(MIT)のような大学を目指したと言われています。

県民からは拙速な「公設民営」に批判が声が高まります。93年9月29日に高知女子大を会場に開かれた「工科大学問題を考えるシンポジウム」に発言者として出席した高知新聞記者の野本裕之氏は、県民に全く盛り上がりがみられないことを指摘し、「燃えていない原因は強引なトップダウン。このままでは落とし穴があるのではないか」と指摘していました。日本共産党県議団は「公設民営」による巨額の県民負担と研究の自主性への懸念から同大関連予算に反対しました。

その後、同大建設は急ピッチで進められて97年に開学にこぎつけます。建設費と運営費補助金(97年から2001年まで)として投入された県費は合計約300億円にものぼり、最高時は40人の県職員を派遣(給与は大学が払っている)していました。現在は基本的に運営費の補助はしておらず、職員派遣は8人になっています。

学校法人・高知工科大

私立大学である同大を運営するのは学校法人・高知工科大。最高意思決定機関は理事会(橋本大二郎理事長、理事は計12人)で、同大の経営にかかわることすべてを決めることができる強力な権限を持っています。

学校法人の規約となる「高知工科大学寄付行為」によると、理事の任期は2年とありますが、選出方法は非常に前近代的・閉鎖的で、理事会の多数派が未来永劫、気に入った理事会を作り続けていける仕組みになっています(※)。地元紙報道で「知事が理事会から追い出される」可能性について触れられていましたが、知事が自動的に理事になる規程はないため、理事会がその気になれば可能。県と県民が大学運営に関与する保証はありません。

学長の選出方法も民主的なものとはいえません。学長選に現場の教員は参加できず、わずか12人の理事会の過半数で決められるもの。「大学の自治」は実質的には存在していません。

理事会「多数派」

橋本知事は2月24日の記者会見で「今の大学の中での力の構造ということから考えて、岡村さんを取り巻く力のバランスが決して私の目指した大学ではないし、県民のプラスにはならない」、「学長はもちろん理事会の理事、評議員をどう選んでいくかということも、創立に関わった人たちが、その中での多数が確保できれば、ずっとその形でいくような流れになっている。公設民営という大学はそれではいけないんじゃないか」などと述べ、理事会の多数を占めるグループによる大学経営のあり方を問題視しています。

ここで言われている理事会多数派の中心人物は元文部事務次官の宮地貫一・副理事長のことと思われます。宮地氏は土佐高・東大OBで開学当初から同大理事を務め、設立手続き時には元文部事務次官という独自の人脈を生かしてスピーディな開学を可能にし、大きな影響力を発揮した“大物”。現学長の岡村氏も土佐高・東大OBで宮地氏に「引っ張られた」構図です。橋本知事が岡村学長の再任を頑なに拒否しようとした背景には、背後に控える宮地副理事長らの影響力の排除という狙いがあったと思われます。

橋本知事の行動は、多額の県民の税金で作った大学にもかかわらず、特定グループが理事会の多数を占め県がコントロールできない理事会の現状に警鐘を鳴らそうとしたものと見ることもできます。橋本知事の拙速な「公設民営」導入の帰結とはいえ、今回の指摘は同大の将来を考えて行くうえで意味のあるものと言えます。

今後の議論では、学校法人の規約である寄付行為を改訂して理事長を知事や知事の推薦する者の当て職にする、理事の選出に県民の意思が反映する仕組みづくり、教職員参加による学長選出など、県民の税金で作った大学にふさわしい県民関与のあり方について探求していくことが急がれています。

※理事になることができるのは@学長、A評議会が選任した者、B理事会で選任した学識経験者。学長・評議員を任命するのも理事会であり、理事を決めるのは理事会自身という仕組みになっている。