2004年9月19日


拙速な公金投入誘致 大丈夫? 「光通信」子会社コールセンターが違法スレスレ求人広告 高知労基署も「問題あり」



 県・高知市誘致を最大限強調した求人広告 「正社員月給20万円」は月40時間以上の残業込みだった


 「ネットバブルの帝王」として知られた重田康光氏が経営する光通信(東京都豊島区)が大旺建設と共同出資して10月から高知市丸の内にコールセンター運営会社「オーシャンテレコム」を開きます。高知市が積極的に乗り出したこの企業誘致。雇用は当初50人、数年後に150人とうたわれ、岡崎誠也・高知市長は「関連業種や地場産業が活性化すれば」と手放しの喜びようですが、果たして県・高知市が未曾有の財政難の中で多額の公金を支出して誘致する価値があるのか否か、慎重な検討が必要です。

 9月8日の地元紙に「高知県高知市誘致企業」「オープニングスタッフ70名大募集」と書かれたカラーの「オーシャンテレコム」社員募集チラシが折り込まれました。前日7日の地元紙夕刊で誘致決定が報じられたばかり。話が浮上したのが7月で10月には開業という猛スピードで事態が進展しています。
 
広告の労働条件説明にはコールスタッフ正社員の賃金は「月給20万円+歩合給」、勤務時間は「9時〜18時(残業あり)」とあります。同社に確認してみました。

 --月給20万円ということだが。
 オーシャンテレコム(以下OT) 「見込み残業制」になっており、給料の中に残業代が含まれている。
 --基本給は。
 OT 応募担当なのでよく分からない。
 --労働時間は。
 OT 9時から18時だが、毎日20時から21時まで残業してもらう。
 --仕事内容は。
 OT マイラインなど回線関係の加入促進や契約業務。

 「月給20万円」には、少なくても月40時間以上の長時間残業が含まれていました。しかし求人チラシは20万円に加えて残業代が出るかのように読める記述になっています。職業安定法42条は新聞広告等で労働条件を明示する時には求職者に誤解を生じることがないよう求め、同65条では虚偽記載をした場合には罰則を課しています。高知労働基準監督署も「問題がある」という認識を示しました。

 毎日2時間から3時間の「残業」を始めから見込んでいることも問題です。1カ月の残業の法定上限は45時間ですが、「見込み残業」が20時までなら月44時間〜46時間(最終土曜は出勤)、21時までだと完全に法定上限を超えます。基本給と時間外の割り増し賃金分の区別も不明瞭で、同社の言う「見込み残業制」とは実態的には10〜11時間労働に他なりません。

 仕事の内容も「市場リサーチやクロージング業務。とびこみ営業はありません」という記載がありますが、実際には電話回線の電話勧誘。広告内容とは落差があります。
 
 県・高知市が多額の公金を助成して誘致する企業の求人がスタートからこのありさまでは先が思いやられます。

 補助制度を大幅変更して誘致

 雇用情勢の厳しさが増す中、コールセンターを誘致しようと、助成制度を変更する自治体が全国で続出しています。県・高知市も、これまでの製造業中心からコールセンターのような業態の企業にも有利になるように制度を改定。高知市は企業立地助成金を変更し、県も要綱改定作業に入っています。
 補助の内容は県2、高知市1の割合で、県が通信費と家賃を補助。高知市はパート労働者を(1週間に20時間以上)1人雇うと半年ごとに30万円(月5万円)支給、常勤労働者を1人雇うと半年ごとに50万円(約月8万3000円)支給するものです。
 これを5年間、上限10億円(県6億7000万円、高知市3億3000万円)を公費負担。「実際には3億円程度になるはず」(県企業立地課)といいますが、巨額の公費が投入されることは間違いありません。

 光通信は冬から激戦となるIP固定電話販売合戦を前に、同様の有利な各地の制度を積極的に利用し、高知市と併行して盛岡、富山、高岡、米子などに続々とコールセンターを開設しています。しかし同社がうたう雇用計画の安定的な実現は不透明です。「高松では人が集まらなくて苦労していると聞いた」(高知市関係者)。また5年で撤退してもペナルティはなく「要綱でしばりをかけるのもなかなか難しい」(県同課)。企業モラルを信頼するしかないのが実態です。

 県民の貴重な税金を使って誘致するからには拙速は避け、対象企業をみきわめる眼が必要です。多額の公金を「食い逃げ」されたということのないよう慎重な対応が求められます。

 オーシャンテレコムが入る大旺建設のビル

光通信 創立1988年。資本金100万円の第二電電(DDI)代理店としてスタート。社名の光は重田氏の名・康光からとったと言われる。90年代に携帯電話販売で急成長。販売店HIT・SHOPを通じて猛烈に販売数を伸ばし、額面50円の株が24万円超まで高騰、「ネットバブルの帝王」ともてはやされるが、2000年にバックマージンを詐取する大量の架空契約が発覚して株価が大暴落。現在は携帯電話の販売とともに、固定電話の回線販売やコピー機の販売に力を入れている。「体育会系企業」と求職学生に言われる厳しい労働実態と大量採用、短期大量離職で有名。社員の平均年齢は20代後半、取締役も30歳台と極めて年齢構成が低いのも特徴。