市町村合併 将来見据えじっくり議論を 交付税減と自治体規模は別問題
現行合併特例法の期限が来年3月に迫る中、県下で市町村合併の議論が大詰めを迎えています。論議が深まるにつれ、合併の矛盾が広範な住民に明らかになり法定協議会から離脱する町村が続出していますが、県は企画振興部長が「将来に悔いを残さない責任ある判断を」という「コメント」を出し、橋本大二郎県知事も「合併へアクセルを踏む」と発言するなど、これまでの「住民の判断を尊重する」スタンスから、合併推進へとトーンを強める言動がみられます。改めて今行われようとしている合併が「将来に悔いを残さない」ものなのかを考えます。
将来に悔いを残さない判断をするためには、目先のことだけでなく、先を見通した議論が必要です。特に自治体財政の議論は住民に分かりにく点が多いため、行政は住民に分かりやすく説明する責任がありますが、説明会では作為的な数字を並べて煙に巻き、肝心なことについて触れないケースが多くあります。
説明会等で行政側が触れようとしないポイント
地方交付税は合併したほうが実質的に減る
合併特例には「合併しても10年間は合併していないものとして交付税を計算する」というものがあります。つまり合併しないほうが交付税は減らないのです(別表)。しかしこのことは多くの住民に知らされていません。単独の場合のほうが減ると錯覚させられています。
「三位一体改革」の影響は合併しても、しなくてもある
今、国がゴリ押ししている交付税削減は合併すれば免れるものではなく、同様に影響が出ます。そのために各法定協議会では、合併後の歳入計画が大幅に狂い下方修正しています。「三位一体改革」の厳しさは合併の直接の理由にはなりません。
合併の「メリット」は巨額借金だけ
法定協議会での説明では単独自立だと歳入が減るが、合併すれば減らないという説明がされていますが、合併後の収入が「維持」できる秘密は、合併特例債にあります。
合併特例債は、単独の市町村ではできない大きな借金を「特別」にしても構わないという制度です。事業費の約7割弱を国が、3割強を市町村が後年度負担することになっています。
国の後年度負担は年々の交付税の中に算入されるということになっており、歳入に借金返済に充てるための金が上乗せされてくることになります。見かけ上、歳入が維持できているように見えてもその使途は借金払いで、自治体が使える金ではありません。それに加えて3割強の自治体独自の返済負担がのしかかってきます。
交付税が削減されて財政が苦しいということを合併の最大の理由にしておきながら、さらに借金を重ねることが「メリット」とは、どう考えても矛盾します。地域の将来をまじめに考えた議論とは思えません。
合併しても10年後には立ちゆかなくなる
合併市町村に対する地方交付税減を猶予する「特例」は10年後で終わり、15年後にかけ急速に減ります。一方で巨額の借金である合併特例債の返済は10年後あたりから急速に増加し、財政が極度に圧迫されます。このことは先行して合併したさぬき市などが、特例債返済で合併数年後から行き詰まっている実態をみても明らかです。
しかし法定協議会では10年後以降の試算はほとんど示されていません。土佐山田町・香北町・物部村でつくる「こうほく3町村合併協議会」も「10年後以降は計算していない」との回答でした。 「将来に悔いを残さない判断」といいながら、収支バランスの激変が明らかな10年後以降の見通しを住民に隠したままでは、あまりにも無責任です。
平岡和久・高知大人文学部助教授(自治体問題研究所理事)の話
「三位一体改革」による地方交付税削減と合併問題は冷静に分けて考える必要がある。国の交付税減は異常だが、歳入不足は小樽市(約14万人)のような規模の自治体でも問題になっており、県が出した市町村財政の資料でも高知市が最も深刻だ。オール・ジャパンの問題であり、自治体の規模とは話が違う。これを合併の口実に使うのはいかがなものか。
合併をしようが、しまいが、自律財政にむけたプログラムの議論は必要。思い切ったことを提起して高コスト体質を転換していかなければならないが、今の合併は本質的な議論がされていない。「あなた任せ」で合併しても上手くいかないだろう。
長野県は、合併する自治体、単独自治体双方を支援する姿勢を明確にしているが、高知県は単独自治体への支援が見えてこない。県が入った広域行政による事務簡素化など金をかけなくてもやれることは多いはずだ。
合併は「百年の計」であり地域住民の自己決定が保証されなければならず、じっくりと腰を据えた議論が必要だ。「早くしないと特例債が使えない」というような目先のことであわてることはない。合併新法もあり、合併が本当に必要と住民が判断すれば、それからでも遅くない。