教科書無償運動 憲法を暮らしに生かす運動だった 高知市教委は「部落解放運動の成果」に矮小化するビデオの訂正を
吉川教育長と話合う県人権共闘のメンバー
高知市長浜の義務教育教科書の無償を求める運動は「憲法26条を暮らしに生かす」ために幅広い共同で取り組まれた運動でしたが、高知市教育委員会が制作し学校に配布したビデオ「教科書をタダに 証言・高知市長浜の教科書無償運動」は、「部落解放運動の成果」に運動を矮小化し、歴史を歪曲しているとして、「人権と民主主義、教育と自治を守る県共闘会議は2月10日、吉川明男・高知市教育長に訂正を求めました。
申し入れは昨年8月に続いて2回目で、教科書無償運動に取り組んだ「教科書をタダにする会」副会長の林田芳徳氏、鎌田伸一・県人権共闘副議長、西村導郎事務局次長らが参加しました。
内容はビデオに@最も運動をよく知る宮本儔・「教科書をタダにする会」会長や林田芳徳氏に話を聞いておらず意図的に排除している、A登場する証言者の話は事実に基づいているにもかかわらず、締めくくりのナレーションで無償運動が「同和問題を解決する運動や学習の中で提起された」としているのは事実に反し、削除を求めるという2点。
■教育的配慮?
吉川教育長は「学校で使用する教材なので教育的配慮をした。過去に学校に来て話をした人を中心に人選した。排除するつもりはなかった」と宮本氏に声をかけなかった理由を述べましたが、鎌田副議長は「宮本さんに声がかからないのは常識では考えられない。宮本氏に聞くことがなぜ教育的配慮に欠けるのか」と高知市教委の姿勢を批判。
「同和問題を解決するための運動や学習から提起された」というナレーションに対して「部落だけをタダにしろという運動ではなく、憲法26条を暮らしに生かせという一点で共同が広がったことが、運動の真髄。同和問題にこじつけるのは事実を歪めている」と指摘しました。
吉川教育長は「一番言いたいのは憲法26条を守ることの大切さ。運動が盛り上がった背景に部落の生活困窮があった」と述べ、訂正を否定しました。鎌田氏は、「盛り上がりとは運動が始まってからのこと。提起ではない。当事者が部落解放運動ではなく、憲法を暮らしに生かす運動だったと証言しているのに、どうして否定するのか」とただしました。
■歴史歪める市教委資料
このビデオ制作のベースになった高知市教委人権教育課発行資料「あすにつなぐもの」が、意図的に歴史を歪めていることが指摘されました。
同資料には「(1960年ころ)長浜地区の中でも、学校の先生たちや市民会館の館長さんといっしょに、お母さんたちの読書会が始まりました」、「長浜地区で行われた学習会の中で(タダで配られるまで買わずにがんばろう)という提案がなされました」など、無償運動を当時の部落解放運動が「提起」したように印象づける記述が見られます。
しかし60年当時、長浜地区に「市民会館」(以前は隣保館や解放会館と呼ばれていた)はありません。隣保館ができたのは62年であり、市民会館へと呼称が変わったのは79年。無償運動当時「市民会館の館長」と勉強会をするのは不可能だったのです。
実際に行われていたのは当時の高知市民図書館長・渡辺進氏を講師にした中学校教科書の勉強会であり、「買わずに頑張る」と宮本会長が提案したのは「長浜地区の学習会」ではなく、教職員組合の「南区教育研究集会」でした。
「あすにつなぐもの」は、無償運動が「同和問題の解決をめざす運動の中で提起された」ことにするために、歴史から学ぶのではなく、事実を故意に歪めて描いています。このような資料が高知市の「人権教育」に今も使われていることは重大です。
無償運動にかかわった当事者に誤りを指摘されても「解放運動の成果」にこだわり続ける高知市教委の姿勢に批判が高まるのは避けられません。