橋本知事の1期目の選挙資金にかかわる自民党・依光質問等について
2003年10月13日 高知県議会「日本共産党と緑心会」
1.はじめにー―事態の概要
9月30日、県議会で、自民党の依光隆夫議員は、橋本知事が初当選した平成3年の選挙資金調達について、建設業者の談合による裏金が絡んだ疑いがあるとして質問に立った。当時の橋本陣営に関与していた笠誠一氏の「証言文書」なるメモ(別掲)をもとにしたもので、橋本知事は「全く知らない」と関与を全面否定している。翌日の「高知新聞」には笠氏と橋本知事の「一問一答」の記事が報道され、その後、議会運営委員会、企画建設委員会で笠氏が参考人として呼ばれ発言し、これが、県民の大きな関心を集める問題となっている。
一貫して金権腐敗政治を一掃し、清潔な政治の実現をめざしてきた 「日本共産党と緑心会」は、県議会で、この質問にかかわる一連の真相の究明に全力をつくしてきた。
笠氏のメモの内容
@平成3年の選挙にあたり、合議の上、町田照代氏より1億円借りる。A返済は、平成6年、裏金として集めた金を3回にわけて銀行振込した。Bその後、橋本孝子氏から東京の自宅に4000万円あると相談されたが自分で処理するよう指示した。C資金調達先は、熊谷組、新進建設、大旺建設、戸田建設から各2000万円、西松建設、和住工業から各1000万円、他に和住工業から「マンション家賃」とし300万円を調達。後援会長から借りた一億円の返済には、熊谷組、新進建設から、坂本ダム工事(平成6年、116億円で落札)にからむ裏金で充当。 (わかりやすくするために文章は整理している)
*企業名は「日本共産党と緑心会」の追及で明らかにされた。
2.奇異な証言 「物証なし」、動機は「知事の4選阻止」
依光質問の根拠は、笠氏のメモだけである。しかも、議会運営委員会で笠氏は、「何ら物証はない」うえに、今回の行動のねらいが「橋本知事の四選阻止」にあることを明言したという特異な状況がある。
また、県議会の質疑を通じ、笠氏のメモ内容の信憑性にさらに疑念が深まっている。笠氏のメモには、300万円を知事選挙時のマンション家賃に充てると記載されていたが、橋本氏を高知に呼んだグループが「私達で支払った。証言してもよい」との情報がはいると、笠氏は「思い違いだった」と訂正した。裏金を記載していたという裏帳簿の処理についても、知事公邸で相談し、選挙事務所で焼却したとしているが、当時、知事公邸は改修中であり、知事公邸に橋本知事が入るのは平成3年12月の選挙から5カ月後の翌年4月からである。選挙後5カ月間も選挙事務所が存在しつづけたという矛盾もある。
*議会運営員会での参考人質疑より(10/3)
田頭 「これらを証明する物証はないわけですか?」
笠 「ないですよ」
田頭 「全然ない?」
笠 「ないです」
田頭 「全然ないんですか?」
笠 「ないです、ないです」
田頭 「企業名も明らかでない。確証もない。そういう文書をことさら出して“狙いは知事の首を取ると、橋本知事を辞めらすと。”その狙いで、こういう文書を出したわけですか?」
笠 「そうですね。」 (文章中、敬称略)
2種類あった笠氏の メモをめぐる疑問
また、笠メモと言われる文書は、2種類あることが判っている。県議会に提出されたものは、笠氏の手書きであるが、最初は、ワープロで打ったものに、笠氏が金額のみを書き入れ、署名捺印したものであったことが明らかになっている。それを、依光県議と相談のうえ、手書きに変えたとしている。このワープロ文書について、笠氏は、自宅のワープロの記録も、文書も廃棄して存在してないとしているが、県議会のいくつかの会派がそのワープロ文書を持っているという不思議なことが起こっている。しかも、ワープロ文書と手書きメモは、ともに今年7月26日作成の日付が入っているが、内容的に、いくつもの相違点がある。ワープロ文書では、“橋本大二郎氏は後援会長から1億円を借り入れた∞あまった4000万円を東京に持って帰った∞数百万円マンション代等”となっていたが、手書きでは、誰が借りたかは書かず合議のうえ借入≠ニなり、4000万円はもって帰ったのではなく 東京に4000万円あり、その処理を相談された≠ニなり、数百万は300万円≠ヨと変わっている。しかも、金額はより具体的になったのに「これは、勘違いだ」とその後、質疑の中で訂正されている。一度は署名捺印した証言文書を手書きにする際、これほど内容に相違ができた点に対し笠氏は明確な説明が出来ていない。
さらに、橋本知事は、10月3日の県議会の答弁で、今回の「疑惑」の背景に国分川の河川敷に関わる土地問題で、今年7月初旬に業者からの圧力があり、それを拒否すると、その業者が笠氏のメモとほぼ同じ内容の書を見せ、「こういうことが12年前にあった。4期目は考え直してほしい」と知事に迫ったことを明らかにしている。
「疑惑」を裏付ける証拠は、いまだに示されないまま
笠氏のメモで名指しされ、一億円を貸したとされた後援会長は、笠氏が3回に分け銀行口座に振り込み返済した≠ニの証言であげられている2つの銀行に確認し、振り込まれた記録はないとの証明を得ていると記者会見で発表し、「事実無根」であると述べている。
これまでの審議の中で、質問者である依光県議からも証言者の笠氏からも、今回の「疑惑」を裏付ける証拠は何一つ示されないままである。
3.ことの発端 特定業者の不当な要求を知事が拒否
今回の件は、高知市内の特定業者が7月3日に東京の笠氏の自宅を訪問した時に端を発していることは、笠氏自身が地元紙のインタビューに答えて「今年の7月3日、県内のA業者が訪ねてきて、県との土地とのトラブルや県の底なしの入札制度(低入札価格調査制度)で『県内の建設業者は苦しんでいる』という話だった。その時にA業者らに同調することにした。それが今回の始まりだった」と述べている。
この業者が県との関係でもめているという問題は知事答弁で明らかになった国分川の河川敷問題であり、大筋以下のようなことである。
問題の土地は、高知市南久保の卸団地東側の堤防周辺にあり、和住工業(高知市中宝永町・横矢忠志社長)が97年5月に境界未確定のまま購入したもので、3分の2ほどは川の水面下である土地で約26000平方メートルである。その購入価格は240万円程度といわれている。 2年後、県土木部は、「98豪雨」後の防災工事のために和住工業からこの土地を1億8000万円で買収するという誤った方針を取っていたものである。そのうえに、和住工業は更に、隣接するより資産価値の高い国有地(弥右衛門都市区画整理事業施行地と隣接)と自社の土地の交換を要求するようになったというのである。
昨年6月、初めて報告を受けた橋本知事は「川の底を1億8000万円で買うことは県民に説明がつかない。本来の姿にすべきで、業者側が訴訟に出ても受けて立つ」とこれまでの土木部の対応を批判し、この方針を拒否したという経過がある。
現在、和住工業は、河川区域の国有地を勝手に埋め立てて使用する不法占有を続けており、県は管理者として現状回復を強く求めている。そういう中で、和住工業の横矢社長が、7月8日に知事室を訪れ、知事に県の判断の変更を要求したというものである。
橋本知事のこの対応は、特定企業との癒着と圧力を排除しようとしたものとして積極的に評価出来るものである。
和住工業は、依光県議の政治団体に献金している関係でもある。この件で、10月8日の企画建設委員会の審議で自民党県議が「買うといいながら、買わないという県の対応は大問題」と「二束三文」の土地を高買いすべきと言わんばかりの論法で和住工業の弁護に終始していることも指摘する必要がある。「高知新聞」の「一問一答」では知事が様々な情報から1期目の選挙直後、「(笠氏が)“天の声”の存在となってはいけないと思い、東京に早く帰ってもらった」と笠氏と関係を断ち切ったことを明らかにしている。
笠氏自身も「(建設業者としては)私を建設業界を仕切る“天の声”を出す立場にしたかったのでしょう。でも、大ちゃんはそれを非常に嫌った」と話しており、橋本知事が特定の建設業界との癒着構造を作らせまいとしていたことも浮き彫りになっている。
4.談合、圧力の一掃へ、徹底解明に全力つくす
「日本共産党と緑心会」は、企業献金は正規の政治資金であったとしても、政治をゆがめるものとして一貫して禁止を求めてきている。私たち県議団は、次の笠氏の「証言」が事実とすれば、坂本ダムにとどまらず、県の公共事業を取り巻く談合体質と建設業界の底知れない利権構造があり、この機会に、こうした利権構造や特定の業者の不当な働きかけを一掃するために、事態の徹底した解明に全力をつくすものである。
*笠氏の談合問題の「証言」――「高松のほうに企業の仕事の配分をしている人がいた。」(その人は熊谷組の人かとの問いに)「そうです。その人に相談したが、その人はそこ(坂本ダム)だけは手配しないうちに亡くなったんです。その後、結局業界がひきついでやった」(10月3日の議会運営委員会)
私たち県議団の要求で、笠氏メモに書かれていた企業名も提出された。県議会としての手順を踏み、全会一致で設置した110条特別委員会の場において、坂本ダム問題での県の内部調査や河川敷問題での当時の担当者の調査をはじめ、必要な論理構成などをしっかり固めることが重要であると考える。
100条委の設置についての議会の正しい態度
今議会で、特別委員会に地方自治法第100条の権限を委任するかどうかが問われた。100条が強い権限をもつのは100条3項に「関係人が正当な理由がないのに、議会に出頭せず若しくは記録を提出しないとき又は証言を拒んだときは、6カ月以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処する」と罰則を設けていることにある。そこには、関係人に対し正当な理由がないことを議会の側が立証するだけの明確な根拠がなければならない。
100条権限の委任は、県議会や県政にとってもまた、政治的にも重要な責任を問われる決定である。本来一定の確証に基づき議会が一致して委任すべきものである。しかし、議会運営委員会の採決は、5対5の可否同数、委員長の判断で決定されるという異例なものとなった。 それは、何ら物証のない一片の個人メモで100条委をゴリ押しすることが、議会の権威と信用をおとしめるものであることがあまりにも明白だからである。ある自民党議員は、10日の議会運営委員会で「100条にすれば、笠氏の証言も変わるかもしれない」と述べたが、そんな曖昧な根拠で、議会を動かしたとしたら、不見識のそしりをまぬがれないことになる。
私達は、こういう見地から、ただちに100条の権限を付与することは適切でないと賛成しなかった。
今後は設置された「坂本ダム等に関する調査特別委員会」の場で、県政と建設業者をめぐる談合や特定企業からの圧力問題など徹底して追及し、県政の改革を前進させる決意である。