先日、NHKでチャップリンの未公開フィルムを紹介しながら人間チャップリンに迫る特集番組をやっていたのに見入ってしまった▼チャップリンはイギリスから渡米した移民。初期のドタバタ喜劇の中で、移民の悲哀を描きアメリカの現実を批判。「モダンタイムス」では機械化による非人間的な労働を告発し、1940年の「独裁者」では、台頭するナチズムとヒトラーを徹底的に茶化してたたかった▼「独裁者」のラスト6分間では、チャップリン自身の言葉として「人生は美しく自由であり素晴らしいものだ。諸君の力を民主主義の為に集結しよう。よき世界の為に戦おう。青年に希望を与え、老人に保障を与えよう」と火の出るような演説をぶった。公開当時「独裁者」は「イデオロギッシュ」であるとされ評判が悪く上映が妨害されたいうことをこの番組で初めて知った▼第2次大戦後に吹き荒れたマッカーシズムの中で、チャップリン作品は「共産主義的」であるとされ、チャップリンは52年にアメリカを追放され、20年後に名誉回復されるのだが、アメリカで「ザ・マジェスティック」、「グッドナイト&グッドラック」など、今でも「赤狩り」をテーマにした秀作が作られているのは興味深い▼番組によるとチャップリンの生涯を通してのメッセージは「価値観の異なる者同士を認め合おう」ということだったという。「赤狩り」も、「テロとの戦い」も、ナチズムもスターリニズムも結局のところ自己以外の価値観を認めない偏狭さがベースになっている。今の日本ではどうか。やはり多様な価値観が日に日に押しつぶされているような現状がある。こんな時だからこそ、じっくりチャップリンの映画を見てほしいと思う。
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