高知新聞連載「時の方舟」で高知県独立をテーマにした近未来フィクションが載っているがこれはなかなか力作だ。若い頃に読んだ井上ひさしの「吉里吉里人」を思い出すが、国の度し難い地方切り捨て政策に抗して「座して死を待つより」はと「独立」を選択することで、現代社会の効率一辺倒、大量浪費型の価値観から「真の豊かさとは」を見つめ直そうと主張する。もちろん空想だが、これからの高知県の将来を考える時に、重要な示唆を含む提起だと感じた▼一方で、同時期に市町村合併についての覆面記者座談会が載ったが、これが同じ新聞で両立するのか不思議なほどベクトルが正反対なのはどうしたことだろうか。語り手はおそらく高知市外の支局駐在の「若手」と思われるが、国の地方切り捨て政策の象徴である「平成の大合併」の推進キャンペーンを張ってきた彼らのスタンスがよく現れていた▼一番の特徴は、国が強引にすすめる合併策への懐疑的な見方が全く感じられないことだ。国や県市町村合併支援室の合併をバラ色に描く言い分を無邪気に繰り返し「受け入れない住民が間違っている」というトーンに貫かれている。全国紙には合併直後から財政が破綻した例や、合併特例債に群がるモラルハザードなど合併の負の部分も報じようという姿勢が感じられたが、「若手」からこのような視点を感じることができない▼今後、国は市町村からの「下からの合併」には見切りをつけて、一気に道州制へ持っていく「上からの合併」に地方リストラ戦略をシフトしていくると思われるが、高新が国のお先棒を担ぐのではなく、「時の方舟」に示された県民に密着した問題意識を大いに発揮してくれることに期待したい。

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