12日は日本映画の巨匠、今も世界で高く評価され、多くの映画人に大きな影響を与えた映画監督・小津安二郎の生誕100年にあたる。NHKや、映画関係者によって記念イベントが華やかに取り組まれているのでご存じの方も多いだろう▼小津の代表作といえばやはり「東京物語」(1953年)。尾道に住む老夫婦が、子供が住む東京に旅行に出かけるが、子供らは自らの生活であわただしく、年老いた両親の相手をしない。「金を出すから熱海で温泉に入ってこい」と追い出す始末。一方で戦争で死んだ息子の嫁だけが親身になって世話を焼いてくれるというただそれだけの話であるが、何度みても新鮮で、泣かされるすごい映画だと思う▼小津は、このように「やがて消えていく家族」の無常感と、「次世代に引き継がれていく」希望とを織り交ぜた独特の世界を、ただただ淡々と、ローアングルに固定されたカメラで延々と繰り返し撮影し続けた▼アクションもない、アジテーションもない、技巧にまったく走らない小津映画は、当時のヌーベルバーグに酔う映画青年には「単調で退屈」、「起伏に乏しい」、「10年一日のごとく同じ様な映画ばかりを作っている」と馬鹿にされていた。今でこそ小津映画の正統な継承者として知られる山田洋次氏も、小津の助監督を務めた時には同様の批判を持ったと述懐している。その山田は晩年の黒澤が「東京物語」みて泣いているのを目撃し、あらためて小津の偉大さを認識し、若き日の我が身を恥じたと話している▼高知県で小津生誕100年に関連する企画がなかったのは少し残念だったが、この機に小津作品を是非見てほしい。必ず新しい発見と感動があるはずだ。(2003年12月14日)


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